苺
手袋を付けたままの手で一粒掴み半分口に入れ噛む。甘酸っぱく広がる春の果実汁が、口の端から垂れる。もう半分、口にする。また一つまた一つと食べてゆく。男は、ただ目の前の女をどう喜ばせるか策を思案する。
去り際の言葉を、男は竈門に焼べた石に水を浴び続ける。女が時間を埋めるために吐いた言葉を、食べ物の評価を聞く女に思えないと端から決めつける。
「マルクスは子供の泣声の中でも、資本論を書き上げたから彼は偉人である」
自分の中で言葉を自己完結させた男と鮮やかな笑顔を見せ続ける女の距離は、埋まることはない。似たもの同士の従姉妹は、捕らぬ狸の皮算用ばかり。どちらにしろ、死者は生きる者の血肉になり土に還るのだから。
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