第323話

 地下へと向かう階段を警戒しながら慎重に降りていくが、奴らが何かを仕掛けてくる事も、罠などの魔法を設置している事もなかった。つまりは、それだけ自分たちの力に自信があり、俺たちを倒すのに罠などは必要ないと考えているのだろう。


「階段が終わる。警戒を強めて」


 俺の言葉に、皆が警戒レベルを一段階さらに引き上げる。そして、最後の一段を降りきり周囲の安全を確認する。最後の一段のすぐ下に罠の魔法陣はなく、階段を降りきった直後に魔法の襲撃もない。


「何も仕掛けてこなかったね」

「そうじゃな。しかし、今も何処かで儂らを見ておるはずじゃ」

「ジャックの言う通りじゃ。地下にいる連中は、全て魔人となっておる可能性が高い。それも、気配を消すのが上手い魔物と融合しておるかもしれん。周囲をよく観察しながら、地下を進んでいくとするかの」

「はい」

『了解です』


 周囲に広がっているのは、綺麗に敷き詰められている石畳いしだたみに、剥き出しになっている岩肌の壁。そんな岩肌の壁には、光を放つ魔道具が等間隔とうかんかくで設置されている。石畳が敷き詰められてはいるものの、見た感じは完全に洞窟の中といった様子だ。


「光を放つ魔道具が設置されておるから分かるが、これほどまでに広い空間とはな」

「私はてっきり、この階段を降りた先に暗き闇の封印があると思っていたよ」

「儂もそうじゃ。ここまでの規模の地下だとは、正直にいって予想外も予想外じゃ」


 ジャック爺の言う様に、岩肌の壁に等間隔で光を放つ魔道具が設置されている事で、この地下空間の異常とまで言える広さが分かる。そしてローザさんの言う様に、階段を降りた先に封印の場所があると思っていたが、見える範囲の中にそれらしいものも場所もない。


「このまま警戒しつつ、全員で固まりながら奥へと進み、この空間の事を調べてみようかの」

「そうだ――」

「いえ、その必要はありませんよ」


 俺がジャック爺に同意の答えを返そうとした時、この場の誰でもない男の事が割って入ってきた。それに気付いた俺たちは、一瞬で戦闘体勢を取り、声が聞こえた方を警戒する。男の声が聞こえたのは、俺たちが進もうとしていた方向、つまりはこの空間の奥からだ。

 魔力感知の範囲内で感じられる魔力は、大きな魔力反応が一つだけ。その事から、敵として現れた相手は、声を掛けてきた男一人という事になる。判明している情報を共有するため、ジャック爺たちに向けて後ろ手で人数を伝える。ジャック爺は了解という合図を俺に伝えるため、手に持っている杖で地面を軽くコツッと一度叩いた。


「貴方たちはここで、偉大な主様の復活をその目にする事はなく、血溜まりの中に沈んでもらいます。――――魔人へと至った私の手でね」


 自信満々にそう言いながら奥から姿を現した男は、服を着た人間サイズのゴーレムの姿をしていた。しかも、魔物として低ランクのロック・アイアンゴーレムではなく、高位冒険者でも倒す事が難しいミスリルゴーレムの身体だ。

 やはり予想通り、地下で戦う奴らは全て魔人となっているな。それも、厄介だったり倒しずらい魔物と融合している様だ。ミスリルゴーレムやそれと同等ランクの魔物となると、魔物としての肉体的な強さだけでなく、人間には扱う事が難しい特殊な魔法を使ってくる。特にミスリルゴーレムの扱う魔法は、この場所・環境とかなり相性が良い。


(地下に入って一戦目から、相当厳しい戦いになるかもな)

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