第322話

 足を踏み入れた大聖堂内は、静謐せいひつな空気に満たされており、とても清らかな空間となっている。そんな大聖堂内には、祭壇やステンドグラス、祭壇の奥に置かれている巨大なアモル神の像などがある。

 それらは総本山故に力の入れようが凄く、資金や人材などが惜しみなく投入されて作られたのが分かる。全てが金ぴかなどといったいやらしさは全くなく、華やかな所は華やかにしつつ、質素におさめる所は質素にした、職人たちが万全な状態で全力を出して作りだした最高の逸品いっぴんたちだ。

 さらに並べられている長椅子や、大理石の床などはほこり一つなく綺麗に維持されていて、この大聖堂という場所がどれだけ神聖視されているか分かる。今回のローラ嬢や教皇の件を抜きにしても、アモル教がアモル神の事をしっかりと信仰しているというのが、この光景からよく伝わってくる。


「さて、ご丁寧に入り口が用意されておるぞ」

「そうだね。あそこが、暗き闇が封印されている場所へと続く、地下の入り口に間違いなさそう」


 大聖堂に入る前に感じていた濃密で膨大な魔力を、ある一点の場所からもっとも強く感じる事が出来る。そのもっとも強く感じられる場所とは、アモル神の像の後ろにポッカリと開いている、地下へと向かう為の階段がある長方形の穴だ。誰もアモル神の像、神々の後ろに安易に立たないという考えから、アモル神の像の後ろに地下への入り口を作ったのだろう。


「教皇が奴らを封印の場所まで案内したという事かの」

「間違いなくそうじゃろう。恐らくは代々の教皇にのみ、封印の場所へと向かう入り口の位置や、その入り口を解き放つ方法を知っておったんじゃろう」


 地下への入り口をなる長方形の穴。その穴を中心にして、大理石の床に穴よりも一回り大きな魔法陣が展開されている。この魔法陣は、地下への入り口を隠すためのものであり、普段は目に見えないように隠蔽されている様だ。それがこうして目に見えているという事は、ジャック爺やローザさんの言う様に、教皇が自らの意思でこの魔法陣を発動させ、奴らを封印の場所まで案内したのだろう。


「何があってもいい様に、俺が先頭で階段を降りていくよ」

「警戒を緩める事なく、何かを感じたら直ぐに止まり、儂らと情報を共有するんじゃぞ」

「魔力感知を常に怠る事なく、一瞬でも異変を見逃すでないぞ」

「ウォルター君、気を付けてね」

「ウォルター、絶対に皆で帰りますからね」

「皆が待ってる屋敷に全員で帰るの」

「美味しい紅茶を楽しんで――――」

「――――美味しいお菓子で幸せになりましょう」

「ああ。絶対に皆で一緒に、待ってくれている人たちの所に帰ろう」


 ここから先は、奴らの主戦力である魔法使いたちが、俺たちの事を狩るために待ち構えている。俺は一度深い深呼吸を繰り返し、地下での相手は魔境に生息する魔物レベルであると考え、意識を魔境にいる時のものに切り替える。

 魔境という土地では、何があってもおかしくない状況が、息吐く間もなく襲い掛かってくる事はつねだ。だからこそ魔境にいる時を同じく意識でいる事で、相手が何を仕掛けて攻めてこようとも、精密な魔力感知と身体強化で鋭くなった五感で、それらを全てを見抜き防いでみせる。

 そして、勇者や聖女ジャンヌの意思を継ぎ、今度こそ暗き闇を完全に消滅させる。


「それじゃあ、地下へと進みましょうか」

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