第315話
そう吼えた粗暴の男の全身から、勢いよく漆黒の炎が燃え上がっていく。そんな燃え上がる漆黒の炎は、粗暴な男を中心にして渦を巻きていき、炎の竜巻となって空気を焼き焦がしていく。
「俺は……オレハは……ヒトを超えた、魔人ダ!!」
魂まで燃やし尽くすかの様な圧倒的な熱が、一気に周囲へと吹き荒れていく。身体を吹き抜けていく熱によって、周囲の温度が急速に上昇する。全身に魔力を纏わせていなかったら、熱で目や口の中が急速に乾燥していき、体調に異変をきたしていた可能性は高い。
「コレだ。これコソが、俺だ!!これなら、ゼッタイに負けねぇ!!ハハハハハハ!!」
高笑いする粗暴な男に反応してか、再び暴力的なまでの熱風が周囲に吹き荒れる。そして吹き荒れた熱風が収まった時、先程切断した粗暴な男の右腕と左脚が、ものの見事に再生されてしまっている。だがそれ以外にも、粗暴な男に急激な変化が起こっていた。
(魔法競技大会で見せた、漆黒の炎を用いた武装や魔法。その強化版といった所か)
吹っ切れた粗暴な男は、不動明王の様に背中に漆黒の炎を背負い、両腕や両脚に燃え盛る漆黒の炎を纏わせている。魔法競技大会の時と違い、武装となっている漆黒の炎の密度や、炎そのものに込められている魔力量が桁違いだ。魔力感知で感じられる魔力量は二倍、もしくは多く見積もって二・五倍の魔力を感じる。それだけでも十分に脅威だ。
それに、両腕や両脚に纏わせて、背中に背負っている漆黒の炎も脅威だ。魔法競技大会の時も確かに脅威ではあったが、その応用・派生である爆裂魔法の方が脅威度が高かった。
しかし、今回の漆黒の炎に関しては別だ。炎の状態で既に前回の爆裂魔法を上回り、その漆黒の炎を利用した爆裂魔法に関しても、前回よりも高威力・広範囲である事は間違いない。
(今回は爆裂魔法だけでなく、漆黒の炎そのものにも最大限の警戒が必要だな)
「――――いくゾ!!」
粗暴な男はテンションを高くしたまま、ニヤリと笑みを浮かべて、一気に加速してその姿を掻き消す。その速度は、先程よりも比較にならない程凄まじい。先程の攻防では、加速する瞬間を視界で捉える事が出来たが、今の移動の際の加速は視界で捉える事すら不可能の速さだった。
「――――シネ!!」
粗暴な男が選択したのは、先程の真正面からの攻撃ではなく、その逆である俺の背後を取っての攻撃。さらに驚くべき事に、粗暴な男が放ってきたのは今までの拳や蹴りによる攻撃ではない。左手を手刀の形に変えて右肩の位置まで上げ、剣を振るう様に袈裟切りの軌道で左腕を振るってきたのだ。
(一体何を――――)
浮かび上がってきたその疑問は、視界に映る光景によって一瞬で解決した。振るわれる左腕、その左腕に纏わせている漆黒の炎が形を変えて、燃え盛るロングソードの刃となった。振るわれた漆黒のロングソードの刃は、空気を焼き焦がしながら迫りくる。
(意表を突かれたが、やる事は変わらん)
「ただ、――――切るだけだ」
手に持つロングソードの刃に、切断力を高める為に攻勢の魔力を纏わせる。そして、迫りくる漆黒のロングソードの刃に向かって振るい、真正面から刃をぶつけ合う。
攻勢と守勢の魔力だが、アモル神やアセナ様、そしてガリル様たちとも行った模擬戦の中で、アドバイスを貰いながら磨きをかけた。その結果、どちらの魔力にも理解が深まり、使用時の性能を大きく向上させる事に成功した。
そんな攻勢の魔力を纏わせたロングソードの刃は、真正面からぶつかり合った漆黒のロングソードの刃をいとも容易く切り裂き、何故?という驚きの表情をする粗暴な男の身体を、深く大きく切り裂いた。
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