第311話

 空を漆黒の雷と紺碧が染め上げ、空気を大きく震わせる。真正面から漆黒のワイバーンと紺碧のドラゴンの群れがぶつかり合い、濃密な魔力同士の反発が何度も起きては、放電が周囲に迸って空を明るく染めると共に激しい衝撃波が吹き荒れる。


「今の私ならば、幾らでも生み出す事が出来る。これこそ魔人の力、偉大なる主様の力だ!!」

「それはもう聞き飽きたわ。次に何かを言うのならば、違う言葉で頼むぞ」


 こやつらは、ことある事に何度も同じ事を言う。まあ、こやつを含めた頭のおかしい連中は暗き闇を崇拝しておるから、仕方ないと言えば仕方ないんじゃがの。


「――――死ね!!」

「まあ、それでもよいか」


 若造の魔力が急速に増大し、展開している魔法陣にその魔力が一気に込められる。そんな膨大で濃密な魔力によって、漆黒の魔法陣から漆黒の放電が激しく迸る。そして、魔法陣から巨大なワイバーンの右腕が現れる。そのまま間髪入れずに、今度は左腕が魔法陣から現れ、両手を魔法陣に付けて力を入れる。


「さあ、出てこい!!」

「ほう、こいつはデカい。魔力を集中させる事で、一体の強力な個体を生み出したか」

「これならばドラゴンと同等!!いや、ドラゴンを超えるワイバーンだ!!」


 若造の言葉に反応してか、魔法陣から突き抜けてくるかの様に、勢いよくワイバーンの頭部が現れる。その頭部はもの凄く巨大で、儂の紺碧のドラゴンよりも一回り以上大きい。そんなワイバーンは、漆黒の魔法陣から胴体・翼・尻尾と次々と生み出していき、魔法陣から漆黒の空へと飛び出していく。


「ここから、さらにもう一手間加える」


 漆黒の空を飛ぶ巨大な漆黒のワイバーンに向かって、周囲にいる漆黒のワイバーンたちが突撃していき、巨大な漆黒のワイバーンの身体の中に吸収される様に消えていく。

 すると、ただでさえ巨大なその体が、漆黒のワイバーンを吸収していく事にさらに大きくなっていく。そして、巨大な漆黒のワイバーンが周囲の漆黒のワイバーンを全て吸収し終わる頃には、一つの山と呼べる程までに巨大な体になりおった。


「はははははは!!この素晴らしい魔法ならば、ドラゴンだけでなく、忌々しい聖獣たちや神々たちを殺す事すらも出来る!!」

「聖獣たちも神々も、その程度で殺せるならとっくに皆消滅しておる。それに、ドラゴンは幻想の中の幻想、この世界で最強の幻想じゃ。そんな最強の幻想を真正面から殺すのならば、――――このくらいの戦力は用意せんとな」


 儂はそう言って杖の先端で空間をトンッと叩き、儂の背後、儂を中心にして五つの巨大な魔法陣を五角形の形で展開する。五つの魔法陣一つ一つは、それぞれ色が違う。一つ一つの色が違うのは、今から魔法で生み出す存在に対する印象が、一体一体異なるからじゃ。それ程までに、初対面での衝撃が大きすぎたの。


「例え今から何を生み出そうとも、私のワイバーンを凌駕する事は出来ない!!」

「相も変わらず、口だけは達者じゃのう。じゃが、――いい加減に不愉快じゃ」


 静かなる怒りを放ちながら、五つの魔法陣全てを並行して発動させる。

 青の魔法陣からは、音もなく動く巨大な蛇。茶の魔法陣からは、圧倒的な存在感を放つ巨大なゴリラ。緑の魔法陣からは、大空をかける空のハンターたる巨大な鷲。黄の魔法陣からは、地を駆ける怪物たる巨大な狼。そして、五角形の頂点にある白の魔法陣からは、調和と平穏をもたらす巨大な鹿が生み出された。


「ただの紛い物であるこれらに勝てぬのならば、ドラゴンを殺す事など到底不可能。聖獣様たちや神々を殺す事など、それこそ夢のまた夢じゃ。では、――――身の程を知れ」

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