第292話

「影の者たちの尽力のお蔭で、暗き闇が封印されている可能性が高い教会を、三つまで絞り込む事が出来た」

「その絞り込んだ三つの教会には、活発になった暗き闇側の者たちもよく通っているんですよね?」

「ええ、そうよ。皮肉にも奴らが活発に活動し始めてくれたお蔭で、絞り込みがより早く終わる事が出来たわね。そして、その三つの中で最も可能性が高いのが…………」

「ローラ嬢とアルベルト殿下が婚約式を行った教会。つまりは、アイオリス王国王都で最も大きく広い教会である、アモル教の総本山という事ですか」


 封印の場所を探る為の調査を始めた最初期から、総本山たる教会の事は最優先目標としていた。しかし、アモル教の総本山であるがゆえに、警備が非常に厳重で常に監視の目が光っていて、中々調査が進められなかった場所。

 そしてあとの二つの教会も、総本山と比較すると一段質が落ちるものの、十分に広くて大きな教会だ。広い王都内においても、総本山に近しい場所に建てられてり、関係者問わず人の出入りが非常に多い。

 この三つの教会には、同じ共通点が存在する。それが、地下に広い空間があるという事。他の教会にも地下空間は存在するが、何かを封印して管理できる程のスペースはない。それが可能となるスペースを有しているのが、調査の結果三つの教会だけという結果であった。


『暗き闇を封印している杖の状態を、魔道具か魔法によって維持しているはずです』

「その魔道具か魔法の魔力を、感知する事は出来ないんでしょうか?」

『勇者や神官たちと親しくしていた、非常に優秀な魔法使いが一人いました。その者は、魔力を遮断する結界を展開する事が得意で、感知能力に優れたジャンヌでさえも感知する事が出来ない程でした』

「つまり、その魔法使いが展開した結界が、暗き闇の封印場所に展開されているという事ですか?」

『ええ、間違いないでしょう。かの者は結界を展開するという才能に特化しており、私たち神々の目や耳すらも遮ってしまう程の腕前でしたから。誰の目や耳からも見つけられない様に、あの者が守護の結界を幾重いくえにも展開して、封印の場所を知る者以外から隠し通したのでしょう』

「教皇やローラ嬢が、その封印の場所を知っている可能性はありますか?」

『暗き闇は接触している事から、その可能性は高いと考えていいでしょう。しかし綻びてしまったとはいえ、神官の封印そのものは非常に強固であり、暗き闇とはいえそう簡単には解除する事は出来ません。それに、あの用意周到で頭の切れる神官の事です。封印を解除する為に、何かしらの条件を付けていてもおかしくありません』


 アモル神やセラス男爵夫人、そしてクララからも許可を得て、俺たちは聖女ジャンヌが記した日記を読ませてもらった。その中に記されていた神官の人物像に関して、アモル神の言う様に用意周到で頭が切れるといった感じではあった。

 そんな神官が最後の力を振り絞ったとはいえ、何の対策もなしにただ杖に封印するとは、日記から読み解ける神官からは考えにくい。封印に何かしらの条件を付け、より強固で解除されない封印へと強化したという方が、日記に記された神官らしいと感じる。

 暗き闇は長き時の中で封印を解除する条件を見つけ出した事で、付き従う者たちと共に表舞台へと姿を見せ、教皇やローラ嬢に接触して自分たちの手駒にした。だが教皇もローラ嬢も、魔法使いとしての腕前は正直に言って二流・三流といった所。そんな二人に自分から接触したという事は、手駒にする以外にも目的があるのかもしれない。

 もしかしたら、神官が封印する際に付けた条件に、ローラ嬢や教皇の何かが関係あるのかもしれない。それを解き明かすことが出来れば、暗き闇が何を狙っているのかが分かるはずだ。影の者たちにも協力してもらい、かなり深くまで調べてみる事にしよう。

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