第288話

 建国祭の準備が着々と進んでいる中、ローラ嬢やアルベルト殿下たちが、久々に魔法学院へと登校してきた。特にローラ嬢に関しては、婚約式が終わった後も聖女としての務めなどで色々と忙しくしていた。なのに急に登校してくるなんて、ローラ嬢は一体何を考えてるんだろうか?

 そんな事をイザベラたちと話していたが、あの自慢したがりのローラ嬢が黙っていられるはずもなく、早々に登校してきた理由が分かった。取り巻きの令嬢たちや、ローラ嬢の派閥に属している生徒たちに、自分からペラペラと周りにも聞こえる様にしゃべっていたからだ。


「建国祭の日に、聖女として人々を癒す事になった…………ねぇ」

「マルグリット、ローラに回復魔法を使う事は出来るの?」


 クララの問いかけに対して、マルグリットは過去の記憶を思い返していく。しかしマルグリットの記憶の中には、ローラ嬢が回復魔法を使っている姿がなかった様で、クララに向かって首を横に振って答える。そのマルグリットの返答に、クララだけでなく全員がやっぱりという表情や雰囲気となる。

 ローラ嬢が回復魔法を元々使う事が出来るのなら、それこそ今回の時の様に、意気揚々に周囲へと自慢をしまくるだろう。それをしていない、自慢を一度も聞いたことがないという事は、ローラ嬢は回復魔法を使う事は出来なかったという事だ。

 しかし、今は回復魔法を使う事が出来ると言っている。なまけ者のローラ嬢が鍛錬をして、回復魔法の腕を磨いたとは考えられない。恐らく、それを可能とする様な力を暗き闇が持っていて、ローラ嬢はその力を与えられたといった所だろうな。そう考えた方がもの凄くしっくりくる。


「ローラ嬢が回復魔法を使える様になったのは、魔法競技大会の時に襲い掛かってきた二人の様に、暗き闇から力を与えられたからと考えた方がいいな」

「まず間違いなくそうでしょうね。でなければ、回復魔法が使えなかったローラが、聖女となってから使える様になった説明がつかないわ」

「効果の高い回復魔法を使える様になるには、才能だけでは絶対に無理よ。才能という器を広げて、たゆまぬ努力という水で満たす事で、回復魔法使いとして一段階上の領域へと至る事が出来る。才能だけに頼って努力をしない者は、決して聖女ジャンヌの様な一流の回復魔法使いになる事は出来ないわ」


 聖女ジャンヌの末裔であるクララの言葉は、至極真っ当な正論であり、上を目指す者にとって非常に重いものだ。何かの一流を目指すのならば、恵まれた才能に胡坐あぐらをかかず、努力をおこたらない様にしなければ、何時までも一流の仲間入りをする事は出来ないからな。

 引退してもおかしくない年齢であるジャック爺やローザさんも、今も研鑽を怠らずに自分の力を高めている。何の努力もしておらず、他者から力を授けられただけのローラ嬢の自慢には何も思わないし、呆れてしまって何かを言う事もない。寧ろ、滑稽こっけいな道化にしか見えないな。

 他人の力を自分の力の様に自慢するローラ嬢よりも、才能に胡坐をかかずに日々コツコツと努力してきたマルグリットの方が、どう考えても公爵家の令嬢として相応しい。その時がきたら、ベルナール公爵家はその事を身をもって知る事になるだろう。

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