第255話

 魔法学院主催の舞踏会。半年に一度、多い時には四半期しはんきに一度のペースで行われている、生徒同士の交流を目的に行われている学院行事の一つ。この舞踏会には学年による区切りはなく、新入生から最上級生まで、色々な学年の生徒たちが参加する。舞踏会の日は、男子生徒も女子生徒も関係なく気合を入れて着飾きかざり、将来を共にする婚約者を見つけようと奮闘ふんとうするのだそうだ。


「実際の所、婚約成立までいくのは何割くらいなんですか?」

「私たちの時代の話になるけれど、婚約成立までいくのは、大体三から四割といった所かしら」

「三から四割というのは、結構な割合になりますね」

「そうね。でもそこから結婚までいくのは、その中でも一から二割程度になってしまうわ。舞踏会という特別な場で惹かれあったとしても、時間が経って日常に戻った時、相性や価値観の違いから婚約解消というのが多いわね」

「やっぱり、そういうものなんですね。イザベラ、最近の感じはどうなの?」

「去年の感じだと、大体一割もいけばいい方だったわ」

「なんたって、私たちの世代にはアルベルト殿下を筆頭にして、女性に大人気の男性が多いから」

「他の男性に見向きする事なく、アルベルト殿下たちに熱い視線を送っていましたね」

「でも今回は、アルベルト殿下よりも側近の方たちに注目が集まると思います。彼らは、まだ新しい婚約者が決まっていませんし、それに近しい存在も周囲にいませんから」

「ああ、確かに」


 フリーになっていたアルベルト殿下には、既にローラ嬢がその隣にいる。だがアルベルト殿下の側近たちである三人には、その隣に立つ女性がまだ決まっていない。何時もと変わらぬ学院生活ではお近づきになれなくとも、舞踏会という非日常の空間と、普段の服装とは違う着飾った姿であれば、側近たちに近づいていく事が出来るのだろう。

 そうして側近たちに近づいて気に入られれば、隣に立つ資格を得る婚約者として、要職を継ぐ男性を支える夫人になれる。その未来を実現する為に、今回の舞踏会という名の戦場で、熾烈な女豹たちの争いが巻き起こるのは容易に想像出来る。さらに言えば、そこにローラ嬢が首を突っ込んでいくのも目に見えるし、そのせいで大きな騒動になるのも同じく目に見える。

 先生たちが止めてくれると、こちらとしても安心して静かにダンスが出来るんだが…………。公爵家の娘であるローラ嬢が相手となると、先生たちでは止める事は難しいだろうな。


「せめて、俺たちのダンスが終わるまでは静かにしていてほしいな」

「それと、友人たちのダンスが終わるまでね」

「最悪、私たちはここで仕切り直せばいいしね」

「そうですね。彼女たちに先に踊ってもらって、私たちは後で踊る事にしましょう」

「はい、賛成です。舞踏会の機会はまだありますが、参加したからには素敵な思い出を作ってほしいですから」

「俺も賛成です。友人たちには、心行くまで楽しんでもらいたいです」


 ローラ嬢たちの動向を観察し、騒動が起こる前に友人たちにダンスを楽しんでもらおう。カノッサ公爵領のスーツやドレスを身に纏い、友人たちと共に語らいながら過ごし、その日を良い思い出として記憶してもらいたい。ご両親や祖父母、それからご兄弟や仲の良い親戚たち、そして未来の夫や妻となる人たちや子や孫たちに、笑顔でその時の事を語ってもらえる様に。

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