第237話

「レギアス殿下の直感が鋭い事は昔から知っていますが、今回ばかりは直感だけで動く事は出来ません。事は王都や副都だけでなく、アイオリス王国全体にまでるいが及ぶ可能性が非常に高い。相手にさとられない様に慎重に動き、確実に情報を集めていきましょう」

「ああ、それについても十分に理解している。残り三割から二割の教会についても、現在進行形で私の部下が調査してくれている。さらにはラインハルト王弟おうてい殿下、叔父が直接指揮を取って、叔父の部下の者たちも調査に協力してくれている。私がレゼルホルンに返る頃には、全ての調査が完了している可能性が高い」


 おさたるラインハルト王弟殿下を筆頭に、副都レゼルホルンの城に勤めている者たちや、守護しゅごの任についている魔法使いたちは非常に優秀だ。レギアス殿下の言う様に、今も現在進行形で調査を進めており、近日中に調査が終了する事は間違いないだろうな。


「次はこちらで得た情報に関して、情報を共有していきたいと思います。まず初めに、王都側の教会の調査報告からさせてもらいます。王都側の教会は…………」


 俺はカノッサ公爵家と協力して調査し、得られた情報の数々をレギアス殿下に報告をしていく。こちらもカノッサ公爵の総力をあげて、王都に存在する全ての教会を大小関わらずに調査し、現在副都と同じく七割から八割程調査が完了している。俺たちは、王都の外縁部がいえんぶから中心部に向かって順に調査していき、小さい教会だけでなく大きい教会にも調査の手を進めてきた。しかし、今の所全て空振りに終わっている。封印に関するような痕跡は全く存在せず、アモル神を信仰するいたって普通の教会だけだった。

 調査に関して一通りの説明を終えた後に、ローラ嬢が正式に聖女ジャンヌの後継者、次代の聖女であると認められた一連の流れを説明していく。ある日突然アモル神が夢に現れ、聖女となる資格を有している事や、秘められた力を解き放ってもらったなどの、ローラ嬢の超えてはならない一線を越えた嘘八百うそはっぴゃくを教えていく。


「だが、その時放たれた力というのを、実際にウォルターたちも目にしたのだろう?それに、アモル教の教皇までも聖女と認めたのだろう?」

「はい。アモル教の教皇も実際に目にして確認しています。確かに客観的に見ると、一般的な回復魔法に比べて優れてはいました。ですが、クララの回復魔法に比べると力が弱いと感じてしまいます」

「ほう。クララ嬢の回復魔法はそんなに凄いのか。それは一度見てみたいものだ」

「機会があれば、レギアス殿下にもお見せできるかと思います」

「まあ、そんな機会は早々あってほしくはないがね」

「勿論です」


 ここまでの説明を聞き終えて、レギアス殿下もローラ嬢の急激な変化に、不審なものを感じてくれた様だ。だがレギアス殿下としては、陛下や王妃が認めた事もそうだが、アモル神を信仰しているアモル教の教皇が認めたという事で、容易に手が出せない状況になっている。特にアモル教の教皇が聖女と認めたというのが、一神教であるこの国では大きな障害になる事は間違いない。


「ローラ嬢が何かしらの方法で力を得たとして、ウォルターたちはどうやったと予想しているんだ?」

「その事について、俺たちには色々と情報を収集しました。その説明の前に、レギアス殿下に会ってもらいたい方がいます。

「会ってもらいたい方?一体誰なんだ?」

「――アモル様、お願いします」


 俺の言葉に反応し、懐に仕舞っている帯からアモル神の分霊が現れる。その姿を見て、レギアス殿下は驚きに固まってしまっている。そんなレギアス殿下に、アモル神は柔らかく優しく微笑んだ。

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