第236話

 正式に聖女として認められたローラ嬢は、その新たに得た能力と権力を十分に発揮はっきし、遂に敵対していた女豹たちを完全に沈黙ちんもくさせた。それと同時に、イヴァン・ベルナール公爵とスザンヌ・ベルナール公爵夫人がベルナール公爵家の力をフル活用して、この国の中枢ちゅうすうである王城へと足繁あししげく通い精力的に働きかけた。そしてその働きかけの結果、ローラ・ベルナール公爵令嬢とアルベルト・アイオリス第一王子が、陛下と王妃の許しを得て婚約を結ぶ事となった。


「兄には悪いのだが、私はローラ・ベルナールと非常に深い仲となる事も、正式に婚約者とした事すらも間違いだと思うがな」

「それはレギアス殿下だけでなく、この場にいる全員が思っている事ですよ」

「マルグリット嬢は人格的にも性格的にも真面まともなのに、どうして彼らはああなんだ」

「寧ろ、マルグリットの方が突然変異なんだと思います。あのベルナール公爵家に生まれた、数世代に一人と言っていい良心の持ち主なのではないでしょうか」

「いえ、私はそこまで言ってもらえるような人間では……」

謙遜けんそんしなくてもいいぞ、マルグリット嬢。ウォルターの言う通りだと私も思うし、マルグリット嬢は実際器量きりょうの良い女性である事は事実だ」

「…………ありがとうございます」


 副都から王都まで情報共有の為に訪れていた、レギアス殿下の心からの賛辞さんじに、マルグリットは照れ臭そうにほほを赤く染めてお礼を言う。家庭環境の事もあって、マルグリットはめられ慣れていない。ベルナール家においてマルグリットが何かをしても、それが当然であると言った様子や、全くの無関心で終わるというのが日常であった様だからな。なので、イザベラたちと友人となった当初の頃は自己評価が低く、俺と恋人関係になり改善されてきたとはいえ今でもまだ影響が残っている。


「……レギアス殿下、本題の方をよろしくお願いします」

「そうだったな。すまない、カノッサ公爵」

「いえ。レギアス殿下のご気分を害されたのならば、大変申し訳なく思います」

「大丈夫だ。父や兄がどうだか知らないが、私はこのくらいの事で怒ったりはしない」

「ありがとうございます」

「では、我々の方で得られた情報から共有していこう。まずは、封印場所に関してからいこうか。現在副都全域に存在する教会を調べているが、現状七割から八割程調査が完了している。しかし、今の所はそれらしいと思われる様な場所は存在しない」

「一つもそれらしき痕跡こんせきが無かったのですか?」

「ああ、無かった。……これは私の直感になるが、封印の隠し場所は副都には存在しないと考えている。封印されている状態なのは分かっているんだが、あの闘技場で感じた背筋せすじこおる程の禍々まがまがしさを、副都にいて微塵みじんも感じる事がないのだ」


 古の勇者を知るアモル神によると、直系王族であるレギアス殿下は古の勇者の血が色濃く出ている様で、宿敵であった暗き闇に直接出会った事で、暗き闇に対する感知能力が高くなっているそうだ。その先祖返りであるレギアス殿下が、副都において何日にも及ぶ調査の日々の中で、暗き闇の気配を微塵も感じる事がないと言う。

 暗き闇がこうして表に出ているという事は、少なくとも封印が少しだけゆるむか壊されているという事で、その影響から暗き闇の気配がれ出ているはずだ。その漏れ出ている気配を、暗き闇に対して高い感知能力を得たレギアス殿下が感知出来ないのならば、相当巧妙こうみょうに気配を消しているか、レギアス殿下の言う様に副都に封印場所が存在しないという事だ。そしてそれが意味する事は、封印場所は王都の教会のどれかに存在し、暗き闇も封印場所がある王都に近しい場所、もしくは王都内の何処かに潜伏している可能性が高いという事だ。

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