第219話

 魔法学院で激しくも醜い女豹たちの戦いを余所に、俺たちは静かに魔法学院での日々を過ごしていた。そんなある日、カノッサ公爵家に手紙が届けられた。差出人は、クララのご両親であるベルトーネ男爵夫妻。手紙に書かれていた内容は、クララが出した手紙に対しての返事、つまりは俺とクララの婚約に関しての返事となる。クララは、何時もと変わらぬ様子でその手紙を受け取り、封を切ってご両親の返事が書かれた手紙を読んでいく。そして、手紙を全てを読み終えたクララは微笑みを浮かべた。


「クララ、ベルトーネ男爵や夫人の返事は何て?」

「自分で選んだ男なら、私の思う通りにしなさいと書いてあるわね」

「お二人は相変わらずの様ね」

「昔から、好きな事を好きな様にやらせてくれてきたから。だから今回の婚約の事も、私の好きな様にさせてくれるだろうなとは思ってたけどね」

「クララのご両親は放任主義なんですね」

「基本的には放任主義だけど、しっかりと言うべき時は言ってくれたり、私たちの為に必要だと思った事は積極的にしてくれた。良い事をしたら心から褒めてくれたし、悪い事をしたら思いっきりしかられたわ。どれもこれも、私にとっては良い思い出よ」


 小さい頃の事を思い出し、懐かしそうにしながらクララはそう言う。俺と同じ転生者であり、生前は成人年齢を超えた大人の女性であったクララは、俺やイザベラ同様に良いご両親や家族に恵まれた様だ。


「クララ。今度時間を作ってベルトーネ男爵領まで行って、ベルトーネ男爵や夫人に婚約の挨拶や顔合わせをしようか」


 マルグリットの場合は色々な事から考えて仕方ないとしても、イザベラやナタリーのご両親には婚約の挨拶や顔合わせなどが済んでいる。クララのご両親にだけ、婚約の挨拶や顔合わせをしないというのはあり得ない事だし、男としても一人の人間としても失礼極まりない話だ。俺がご両親の立場だとして、娘や息子が婚約や結婚する時には、最低限挨拶や顔合わせくらいはしてほしいと思うからだ。こうした大事な節目という時に不義理をすれば、それらの行いが自分に帰ってくるという事を忘れてはならない。


「ウォルター、ベルトーネまで行く必要はないわ」

「どうして?」

「ウォルターに会いに来るのか、また別の理由があるのかは分からないけど、お父さんとお母さんがお義母バルサ様と同じ様に、カノッサ公爵家を訪ねに王都に向かうと書かれてる。しかも出立したのは、この手紙を書き終えて直ぐみたい。手紙に書かれてる日付から考えて、後二・三日もすれば、父さんと母さんもカノッサ公爵家の屋敷に到着するわ」

「なる程。それなら確かにベルトーネまで行く必要はありませんね」

「ベルトーネ男爵夫妻が我が家に訪れるのなら、直ぐにでも歓待かんたいの準備をしないと」


 イザベラの号令の下、こちらに向かっているベルトーネ男爵夫妻を歓待するために、カノッサ公爵家が一丸となって動き始めた。俺たちもセバスさんたちに協力して一緒に準備を進め、ベルトーネ男爵夫妻を迎え入れる為の万全の態勢を整えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る