第183話

 八十階層の階層主という魔物たちを倒し、数日にも及ぶダンジョン探索を終えて、俺たちはコーベット男爵家の屋敷へと戻ってきた。皆で一緒に楽しむ朝食に、八十階層の階層主からドロップした肉を調理してもらったのだが、あまりの美味しさに全員黙りこくってしまい、黙々と食べ続ける静かな朝食となってしまった。ゲオルグ君や、クラリスちゃんやフラウちゃんたち男爵家の子供たちは、何度も何度もお代わりしてお腹一杯になるまで肉を楽しんでいた。


「ウォルター。事前に伝えておいた通り、コーベット男爵領に滞在する残りの日数を、子供たちに魔法を教える事に集中したいと思っておる。すまんな」

「私やイザベラたちも賢者様に協力したいと思ってるから、申し訳ないのだけれど、全員でのダンジョン探索は八十階層までね」

「私たちも、子供たちに魔法を教えてあげたいの」

「あの子たちの将来が、少しでも良くなってくれればいいなって思ってね」

「それに、魔法を知る事で生活が楽になるでしょうし」

「身体に負担のかかる重労働が多いから、身体強化の魔法だけでも教えておきたいと思って」

「全然大丈夫だよ。それに、ジャック爺が楽しそうに子供たちに魔法を教えているのを見て、こうなるだろうなとは思ってたから。肉のダンジョンの探索は、また別の機会にでも出来るしね」


 肉のダンジョンはあそこから動く事はないし、今後コーベット男爵領に二度と訪れないという訳でもないのだから、今回の長期休暇滞在中の探索が中止となっても特に問題などない。寧ろこういった機会でないと、子供たちにのびのびと魔法を教えるなんて出来ないだろうから、そちらを優先してもらいたいと俺も思っている。


「そう言ってくれると助かるの。じゃが、ウォルターは何をして過ごすんじゃ?」

「領民の皆さんの仕事や家事を手伝ったり、森や山に入って調査と狩りとかかな」

「調査に狩り?何か気になる事でもあったのか?」

「いや、今の所特には何も。野生の高ランクの魔物がいないかとか、低ランクの魔物たちでも群れを作ってないかとか、まずはその辺りの調査からかな。広範囲に調査をしてみて、魔物の数が増えすぎていたりしたら、間引まびきするためにも狩りをって感じだね」

「十分に理解しておるとは思うが、決して森や山を荒らさぬ様にな。森や山の主を怒らせる様な事をすれば、鎮めるのにかなりの時間が必要となるからの。最悪、男爵領にも影響が出かねん。もし出会ったとしても、決して粗相そそうのない様にな」

「分かってる。何か見つけたとしても、深追いせずに一旦こっちに戻ってくるよ。ただ、森や山の主たちは思慮深しりょぶかくて賢いから、何か悪さをしない限り姿を見せる事は早々ないと思うけどね。もし主に出会ったとしたら、しっかりと礼節をもって接するよ」


 この会話が後のフラグとなるとは、この時の俺には予想する事も出来なかった。しかしあの出会いがあったからこそ、俺たちはアイオリス王国の古き勇者について知る事が出来た。そしてそれを知れたからこそ、あの時点では全くの未知の相手であった、奴らの正体を暴く事に繋がったのだ。

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