第142話

 片方は理知的な感じの男で、もう片方は好戦的で粗暴そぼうな感じの男。黒い宗教服を身に纏っている体格の良さから考えて、二人とも身体をかなり鍛えているのが分かる。

 先程の襲撃の際に展開した魔法陣に、その魔法陣から放たれた漆黒の雷。これだけでも、目の前にいる黒ずくめの二人が一流の魔法使いである事は間違いない。それに加えて、身体を鍛えているという事も合わせて考えると、近接戦闘もこなせると予想していいだろうな。

 黒ずくめの二人は武器を持っておらず、無手の状態でいる。杖を持っていない事から、杖なしでの術式の構築、魔法陣の展開から発動までを行えるとみていい。ただ、杖を含めた武器を隠し持っている可能性はある。不用意に接近するのは危険だな。


「あいつらをる前に、邪魔したこいつを先に殺していいよな?」

「……ふむ、まあいいだろう。今後の障害になりそうな者は、排除しておいた方がいい。だが、確実に殺しておけ。後で生きてましたなんてのはごめんだからな」

「分かってるよ。……ていう訳で、さっさとお前を殺して、本来の仕事に戻らせてもらうぜ!!」


 好戦的で粗暴な男の方が、濃密な殺気を撒き散らしながら距離を詰めてくる。俺は固まって動けないアルベルト殿下の首根っこを掴んで、王族や陛下がいる席に向かって放り投げる。


「――え?」

「ほう。判断が早いな」


 距離を詰めてくる粗暴な男の狙いは今は俺だが、本来の標的は両殿下だ。この状況でも戦えるレギアス殿下はまだしも、アルベルト殿下はいい的でしかない。それならば、安全な場所に移動させる事を優先させる。そして、王城勤めの魔法使いたちが囲んでいる陛下のいる場所が、アルベルト殿下にとって安全な場所だと判断した。


「ハハハ、死ね!!」


 粗暴な男は、笑いながら拳や蹴りを放ってくる。それらを時に避け、時に受け流していく。粗暴な男の攻撃は重く鋭いもので、受け流した腕や脚が僅かに痺れる。戦闘をしながら、粗暴な男の魔力の流れを観察する。そこで判明したのは、身体強化の魔法に加えて両拳や両脚へとさらに魔力を纏わせて強化し、威力を上乗せしているという事だ。この戦い方は、魔法戦闘になれている魔法が使える戦士の戦い方だ。


(さっきの魔法を放ったのは、あっちの男の方だったか?だがここまで精密な魔力操作に制御が出来ている事を考えても、本職の魔法使いでなくとも一流の戦士である事は間違いない)

「――チッ!!しぶとい奴だ!!いい加減死んどけよ!!」


 ここで粗暴な男がギアを一段階上げてきた。両拳と両脚に纏わせていた魔力が、禍々しく冷たい魔力へと変質した。そこからさらに魔力の属性も変化させ、漆黒の炎へとその姿を変える。これを受け流すのはやめた方がいい。そう判断した俺は、この漆黒の炎を纏った拳や蹴りをひたすらに避け続ける。

 避け続ける中で、少しづつ漆黒の炎の情報を得ていった。確かに漆黒の炎は強力ではあるが、膨大な魔力であれば漆黒の炎に燃やされる事なく、拳や蹴りに対抗する事が出来るのが判明した。それが分かってからは、ロングソードの剣身や自分の身体に膨大な魔力を纏わせて、粗暴な男と近接戦闘を繰り広げた。


「おい、早く殺せ」

「分かってるよ!!……仕方ねぇ、何時ものでいくか」


 漆黒の炎がさらに変化していく。漆黒ではあるは普通の炎だったものが、ガントレットとグリーブという武具の形に変わった。粗暴な男はニヤリと笑みを浮かべて、その場で目にも止まらぬ速さで拳を打ち抜く。すると、ガントレットから漆黒の火球が放たれた。その勢いは凄まじく、ものの数秒で俺との距離を詰めてくる。


「――――フッ!!」

「なっ!!」

「……似たような飛び道具を持っているとは。これは驚いたな」


 俺は上段からロングソードを振り下ろして、漆黒の火球に向かって魔力の斬撃を放ち、漆黒の火球を切り裂いた。それを見た粗暴な男は、自分の技が切られた事に驚く。理知的な男も同じく驚くが、驚きつつも冷静に俺を観察し続けている。この二人組で厄介な方なのは、理知的な男の様だ。


「おい」

「なんだ?」

「魔法を使うぞ。いいな」

「止めても聞かんのに聞くな。あまり派手にやるなよ」

「ハハハハハハハ!!――――いくぜ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る