第138話

 第三戦の初手、仕掛けたのはレギアス殿下からだった。だがこれは新顔の女子生徒と同じく、相手の力量を測るための、威力を抑えた魔法での様子見だ。レギアス殿下は幼い頃に副都レゼルホルンへと移り住み、そのまま長い間副都で暮らしてきた事から、アルベルト殿下が魔法使いとして実際どこまでの力量なのか知らない。ここまでの戦いでは手を抜いていた可能性があるという考えが、レギアス殿下の中ではあるのだろう。だからこそ、まずは小手調べの魔法での様子見といった所か。

 その小手調べの魔法に対するアルベルト殿下の動きは、決勝までの戦いとは別の対処の仕方をしてきた。決勝までの試合では、こういった面で攻めてくる魔法に対しては、同じく面で攻める魔法をぶつけていた。だがレギアス殿下の面で攻める魔法に対して、アルベルト殿下は回避と防御を選択した。


「戦い方を変えたね」

「恐らく第一戦での醜態から、無駄に魔力を消費すればどうなるのか学んだんじゃろ」

「今までは豊富な魔力量で何とかなってきたけど、相手も同じ条件になった時に通じない事を学習した。だから魔力を消費しない立ち回りに変えたって所かな」

「そうじゃな。そうすれば、相手は魔法を放った数に対して魔力を消費するが、自分は身体強化と魔力障壁に魔力を消費するだけで済むからの」

「でも身体強化はいいとしてもさ、魔力障壁の方は状況によって変わるよね。今はまだ小手調べ程度の魔法だから魔力消費が少なくて済むけど、本格的に魔法を使ってきたらその分魔力消費も増える。その時はどうするつもりなんだろう?」

「その辺はその時になってみないと分からんの。じゃがそうなる前に、戦い方を変えると儂は思うぞ」


 レギアス殿下がアルベルト殿下の動きを見て、色々な攻め方へと変えていく。面で攻めていた魔法を点で攻める魔法に変えてみたり、遅延魔法を織り交ぜて時間差で攻めてみたりと、色々な攻め方に切り替えて仕掛け続けた。

 対するアルベルト殿下は、反撃の機会を待ちながら回避や防御に集中し続けた。魔力消費を極力少なくする事を意識して立ち回り、ひたすらに待ちの姿勢を崩す事なく耐え続け、レギアス殿下から放たれる魔法の全てをやり過ごした。


(レギアス殿下の魔力の動きが変わった。それと同時に、アルベルト殿下も動きを変えたな。それぞれが、本格的に相手を倒すための動きへと一気に切り替えた)


 両殿下は今までの動きからガラリと動きを変えて、本格的な魔法戦闘を開始した。アルベルト殿下は、威力と速度を兼ね備えた光の属性魔法を中心に仕掛ける。対するレギアス殿下も、威力と速度を兼ね備えた闇の属性魔法を中心に仕掛けた。本格的に始まった魔法戦闘に、観客たちは再び盛り上がっていく。

 だが依然いぜんとして、レギアス殿下優勢の状況は変わらない。レギアス殿下とアルベルト殿下とでは、術式や魔法陣の構築・展開速度や、魔法を放つ速度そのものにすら大きな差があるからだ。光と闇の属性魔法が威力と速度において差がないといっても、魔法使い同士の力量に大きな差があると、放つ属性魔法にまで影響が及ぶ。

 アルベルト殿下の放った光輝く魔法が、レギアス殿下の放った漆黒の魔法に飲み込まれ、跡形もなく消え去っていく。最初はアルベルト殿下にも余裕があったが、次々と自分の魔法だけが消し去られてしまうのを見て、徐々に精神的な余裕がなくなり魔力や魔法が乱れていく。それを見抜いたレギアス殿下が、アルベルト殿下を仕留めるために勝負に出た。

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