第123話

 イザベラ嬢たちとの情報共有を終え、家に帰ってジャック爺と一緒に夕食を食べる。その時に、上位属性魔法についての諸々を聞いてみた。


「ウォルターが帰ってくる二日か三日前くらいから、本格的に教え始めたかの」

「どこで教えてるの?上位属性魔法って、小さい頃にも見せてくれたあれでしょ?不発で終わってくれるならいいけど、あんなのが王都で暴発したら、貴族街なんて更地に変わるでしょ」

「まあ、そうじゃな」

「そうじゃなって……」

「安心せい。儂が何の対策もなしに、上位属性魔法なんて凶悪な魔法を習得させようとするはずないじゃろ」

「何の対策もしないままに、家の庭から空に向けて魔法ぶっ放したのは何処の誰だったけ?」

「ホッホッホ、誰じゃったかの?とんと覚えがないの」


 とぼけるジャック爺にため息を吐く。まだ幼い頃、魔法に興味津々な俺にジャック爺がある魔法を見せてくれた。それが、上位属性魔法だった。

 見せてくれたのは光属性の上位属性魔法で、簡単に言えば光のビームを放つ魔法だ。杖の先端に魔法陣を展開し、光属性の魔力を圧縮して放つ、上位属性魔法の中でも初歩にあたる魔法だ。天へと立ち昇る、光り輝く大木の幹の如きビーム。空気を震わせ、空を漂う雲に大きな真円の穴を開けたその光景は、二度目の人生で精神年齢が高くとも、純粋に凄いと思って喜んだのをよく覚えている。

 だがそれを俺に見せてくれたのが、ベイルトン辺境伯家の屋敷、つまりは俺の実家の庭での事だった。当然の事ながら、膨大な魔力の動きや光の柱が立ち昇るのを親父や母さんたちに感知された。そして、主に母さんたちからジャック爺はボコボコに言われて、凹まされてしまって激しく落ち込んだ。その時に、見せてくれた魔法が実は危ない魔法であった事を教わった。

 そんな危ない魔法を人様の屋敷の庭で、かつ子供の目の前で展開・発動するのだから、ジャック爺=賢者ではなく、魔法オタクの爺さんという印象の方が強く残った。


「で?結局何処で魔法を教えてたの?」

「教えておった場所は、カノッサ公爵家の屋敷の庭じゃ。儂が魔法を発動して、安全な空間へと変えた庭じゃな」

「安全な空間?…………それって」

「そうじゃ!!ウォルターが子供の頃に言っておった、空間そのものに作用する魔法じゃ!!苦節十五年をかけて組み上げた、儂のとっておきの空間魔法じゃ!!」

「……本当に完成させたんだ」

「まあ、かなり苦労したがの。まず空間そのものに魔力を干渉させる事に七・八年程時間がかかり、それをさらに魔法へと昇華させるのに、同じく七・八年程時間がかかったの。まあ、十五年という時間に見合う素晴らしき魔法となったがの。はっはっは」

「ジャック爺は、…………本当に賢者だったんだね」

「失礼じゃの!!……まあウォルターにとっては、近所の爺さんくらいにしか思わんかったのかもしれんがの。じゃが、これでも魔法に生涯を捧げておると思っておる。どうじゃ?儂は凄い魔法使いじゃろ?」

「うん、ジャック爺は本当に凄い魔法使いだよ」

「はっはっは、もっと褒めるんじゃ」

「…………そういう所がなければ、もっと素直に褒められるのに」

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