第112話

(あの飢えた獣の様なギラついた瞳は、母さんや叔母さんたちが買い物の時などにしていた、良い商品を見つけた時のものだ)


 そう思った瞬間、女性陣のギラついた瞳の全てが、俺へと一瞬向けられる。ほんの一瞬であったにも関わらず、激しい悪寒と嫌な汗が止まらない。本当に、肉食獣に睨まれたのかと思った。


「ウォルター。私へのお土産だと渡された物は、これで全てなのか?」

「いえ、まだまだあります」

「他の物も、今この場にある物と同品質の物か?」

「恐らくは、そうだと思います」

「残りは、あとどのくらいあるんだ?」

「公爵様の分としては、今出ている分で三分の一程ですね」

「三ぶ…………、残りの三分の二の内訳は?」

「服が三分の一、武器や防具、それから魔道具なんかが残りの三分の一ですかね」

「その三分の一もある服は、全て寡黙な蜘蛛の糸でできた生地で?」

「そうですね。全てその生地で作られてるはずです。詳しくは聞いてませんが、公爵様の服だけでなく、アンナ様やイザベラ嬢たちの分として持たされたお土産の服も、同じく寡黙な蜘蛛の糸でできた生地で作られていると思います」


 カノッサ公爵の質問に答えていくと、それに合わせる様にして、女性陣から放たれる圧が強く大きくなっていく。俺は、サッとカノッサ公爵に視線を向ける。カノッサ公爵は、向けられた視線の意味を即座に理解し、ほぼノータイムで頷い返してくれる。


「私の方は、これだけでも色々と見せてもらって満足した。残りの方は、アンナたちのお土産が終わってからにするとしよう」

「貴方、いいんですか?」

「ああ、構わないとも」

「ありがとう、ローゼン」

「気にする事はないよ、アンナ」


 カノッサ公爵が、自分の分のお土産の時間はもう充分だと、無理やりではあるが告げる。ジャンやマークの二人は、女性陣の圧が強く大きくなった段階で口を固く閉じている。そのまま嵐が過ぎ去るのを息を潜めて待ち、カノッサ公爵が無理やり自分の時間を終わらせたことに対しても、何かを言うまでもなく、それが正しい選択だと言わんばかりにウンウンと頷いて同意している。

 そして女性陣は女性陣で、カノッサ公爵が無理やり自分の時間を終わらせたことを察し、感謝の思いを抱きながらも、この後に出てくるお土産に期待を膨らませている。


(あ、公爵様に一つ伝え忘れていた事があったな)

「ウォルター、何を言おうとしておるんじゃ?先に儂に聞かせてくれんか」

「え?まあ、いいけど。公爵様にさ、服に関しての事で一つ伝え忘れた事があってさ」

「服の事で伝え忘れた事?一体何を伝え忘れたんじゃ?」

「ジャック爺も知ってるでしょ。おばちゃんたちが作る服には、あの機能が備わってるって」

「ああ、そうじゃったな。あれに関しては、儂ですら下手に手を加えると、元に戻すのが面倒な術式じゃからな。事前に伝えておいた方がいいじゃろうな」

「じゃあ……」

「ウォルター、これについては儂から伝える。お前は、女性陣のお土産を取り出す準備を優先するんじゃ」

「?……了解」

(……あの機能の事を説明すれば、早く服を出せと圧をかけられるのは間違いない。それくらい、あの魔法は女性にとっては魅力的なものじゃからな。まったく、あの婦人たちはもの凄い魔法を生み出したもんじゃ)

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