第100話

 ベイルトンと昔から親交のある領地を巡りながら、五日程時間をかけて王都へと戻ってきた。ドニの商人団と共に、王都の城壁の検問を超えて王都内に入る。五日ぶりの王都だが、出発前に比べて人々の活気が凄く、まるでお祭りでもあるかの様だ。各商店も商品の割引などで人を呼び込み、上手く波に乗っている。


「この活気の良さは、一体全体どうしたってんでしょうね?」

「恐らくだが、先に王都に帰還した精鋭部隊が、魔境から桃を持ち帰った事を大々的に発表でもしたんだろ」

「なる程。確かに“若返りの桃”を持ち帰ったとなれば、国の一大事と言ってもいいでしょうな」

「ドニ、商機は逃すなよ。まあ、商人団を率いるやり手の商人に言う事じゃないけどな」

「いえいえ。初心忘れべからず、でしたっけ。小さい頃のウォルター坊ちゃんが、私に教えてくれた言葉。今も胸に刻んで、毎日笑顔で仕事してますよ」

「そうか、それならいいんだ。とりあえず、ドニの店まで戻ろうか」

「そうですな」


 商人団の商人たちと一言二言会話をしてから別れ、ドニの馬車に乗ってドニの商店へと向かう。ドニの本拠地たる商店は、王都の貴族街の直ぐ傍の大通りに構えている。巧みな話術と柔軟な対応で徐々に顧客を増やし、信用・信頼を積み重ねてきた堅実な商人。

 そんなドニは、何の偶然かコーベット男爵領の出身。そして、奥さんもコーベット男爵領出身の女性で、二児の父親でもある四人家族の大黒柱。本人が言うには、昔はどんなに遠い場所や危険な場所にも自分で向かっていたそうだ。だが守るべき家族が出来てからは、危険な場所に向かうのは控える様になり、アイオリス王国内での活動のみに切り替えたそうだ。

 ドニは商人として鋭い嗅覚で次々と商機を逃さず、堅実な姿勢を評価されて次々と商談をまとめていき、着実に力をつけていった。そして今や、商人団のトップとして他の商人を率いるほどにまでになった。


(あのカノッサ公爵家とも取引がある、本当に凄い商人なんだがなぁ……)


 ドニの唯一の欠点があるとするならば、もの凄い親バカである所だろう。二人の子供、十一歳の息子さんと九歳の娘さんを目に入れても痛くない程に溺愛しており、それぞれの子供に近づく異性に目を光らせては、奥さんに冷ややかに見られながらお仕置きされているとの事(本人談。とても自慢げに)。

 俺も娘さんに顔を合わせる度に鋭い眼光を向けられ、娘さんと奥さんが呆れるというのを何度も繰り返している。そして今回もいつもと同じ流れが繰り返され、娘さんと奥さんがジト目でドニを見ている。最終的に奥さんが店の奥へと連れていくまで、娘さんがどれだけ素晴らしいかを延々と語られ続けた。肉体的には元気一杯なのだが、精神的にはもの凄く疲弊した。

 何とか精神を持ち直しながら、五日ぶりの自分の家へと戻るために足を進める。家に戻ったら、最初にジャック爺へ帰還の挨拶をして、魔境での出来事の報告。その後はカノッサ公爵の屋敷に向かい、皆に無事に戻った事の挨拶と、魔境での精鋭部隊の動きを報告する。その他にも色々とやる事があるが、一つ一つ確実に終わらせていこう。

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