第93話

 俺は今、王族やカルフォン公爵たちが魔境へと送り出した、第二陣の精鋭部隊と共に魔境の中にいる。

 事の発端は、何時も通りに情報共有の為にカノッサ公爵家の屋敷へと向かった時に起こった。その日も、ジャック爺は俺と一緒にいた。そしてカノッサ公爵家の屋敷に到着早々、ジャック爺やアンナ公爵夫人、さらにはカノッサ公爵に話があると言われて聞かされたのが、今回の第二陣の精鋭部隊に同行するという内容だった。

 そこで語られたジャック爺の想いや、カノッサ公爵やアンナ公爵夫人の親としての、貴族としての願いを聞かされた。正直、イザベラ嬢たちと結婚する云々うんぬんに関しては想像すらもしていなかったので、ビックリしたというのが素直な感想だ。しかもイザベラ嬢とクララ嬢に関しては、アンナ公爵夫人と初めて会ったお茶会の時点で、その事を想定に含めていたというのだから、余計に驚いてしまった。

 まあ俺も、今世では三男とはいえ貴族家に生まれたから、政略結婚については一定の理解はある。だがこうして、親や祖父代わりとしての意見を直に聞かされると、どんな世界であっても、親は子の幸せを願うものなんだなと思った。そんなジャック爺やカノッサ公爵夫妻から聞かされた想いに応えるためにも、俺は精鋭部隊への同行を引き受ける事にした。


「相手は機動力のある相手だ。拘束系統の魔法で足止めをし、そこから高威力の魔法を叩き込んで仕留めるぞ!!」

『了解!!』


 リーダー格の魔法使いさんが指示を出し、指揮下にある魔法使いたちが素早く魔法を発動していく。そんな魔法使いの部隊は、強力な魔法を使って倒そうとしているその相手が、魔境で生きている魔物たちの実力階級ヒエラルキーの中でも、だという事を知っているのだろうか?


「魔境などと大仰な名を持ちながらも、出てくる魔物はこの程度か!!捕らえたぞ!!」


 全身を土の手で拘束された漆黒の狼に対して、リーダー格の魔法使いはニヤリとした笑みを浮かべて高らかに言う。指揮下にある魔法使いたちも、リーダー格の魔法使いと同様に、こんなものかという余裕の笑みを浮かべる。


「では……放て!!」

『了解!!』


 リーダー格の魔法使いの指示を受けた魔法使いたちが、自身の魔法によって生み出した槍を、一斉に漆黒の狼に向かって放っていく。だが漆黒の狼は、自身を拘束する土の手も、迫り来る魔法の槍も意に介す事もなく、ただそこに佇んでいる。そんな漆黒の狼に各種魔法の槍がぶつかり、大きな爆発を伴って土煙が上る。


「ふん、たわいも無いな」

「ええ、そうです……!?」

「どうし…………な、なんだと!?」

(俺としては、確実に漆黒の狼を倒した事を確認もしたわけでもないのに、勝った気でいる方がどうかと思うぞ)


 彼らが驚いたのは、全くの無抵抗で拘束されて、全くの無抵抗で魔法の槍を受けたにも関わらず、その身に一切の傷を受けていない漆黒の狼が変わらずに立っていたからだ。まあ、あの程度で魔境の魔物に傷が付くわけないよね。

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