第65話
煌びやかな宮廷服を身に纏った人々が、ベルナール公爵家の大広間に一堂に集まり、今日の主役の登場を静かに談笑しながら待っていた。しかしその内容は、年に一度の晴れの日に相応しくない内容ばかりだった。
招かれた貴族の連中の殆どは、主にベルナール公爵家の派閥に属する者たちだ。それ以外の招待客は、ベルナール公爵家の誰かと個人的な付き合いのある者たちだけ。割合で言えば九対一であり、九が招待された派閥の貴族たち、残りの一が俺を含んだ個人と個人の付き合いから招待された客になる。
(それにしても、どいつもこいつもマルグリット嬢の陰口ばかりだな。ベルナール公爵家当主やその家族が、マルグリット嬢を下に見ているからといって、お前たちがマルグリット嬢より上の存在ではないというのに……。まあいい、今に見ていろ。今日は彼女が主役の日だ。陰口を叩いていた事を後悔させてやる)
陰口を言い合っている者たちへ視線を向けながら、内心に燃え滾る怒りを悟られぬ様に、静かに壁に寄りかかって存在感を消しておく。
本日の主役であるマルグリット嬢がこの場に現れるまでに、まだ少し時間がある。今後、俺たちの敵になる可能性のある貴族たちの顔ぶれを覚えていく。その中でも最も注目し、マルグリット嬢の最大の敵として覚えておくべき顔が三つある。
まず最初の一人、イヴァン・ベルナール公爵。ベルナール公爵家現当主であり、マルグリット嬢の血の繋がった父親。次に二人目、スザンヌ・ベルナール公爵夫人。ベルナール公爵の妻であり、マルグリット嬢の血の繋がった母親。
そして最後の一人、ローラ・ベルナール公爵令嬢。ベルナール公爵の次女であり、マルグリット嬢の血の繋がった妹。マルグリット嬢を悪女へと
(愚かな事を考えるローラもローラだが、その愚かな女の計略に見事に嵌まり、マルグリット嬢を敵視するアルベルト殿下とその側近たちも愚か者だな。アンナ公爵夫人やイザベラ嬢たちが、愚か者の彼らが次期国王に相応しいのかどうかを、疑問視するのも理解出来てしまうな)
今日のマルグリット嬢の誕生日には、当然アルベルト殿下にも婚約者として招待状が送られているはずだ。しかし、アルベルト殿下の姿は今現在見当たらない。もしかしたら、マルグリット嬢と共に出てくる演出をして、表面上は仲良くしている事をアピールするつもりなのかもしれない。
そんな事を考えていたら、大広間の明かりが弱まっていき、二階へと続く階段に光が当てられる。その光に当てられて姿を現したのは、今日の主役であるマルグリット嬢。ブルーのドレスを身に纏い、綺麗な化粧の施されたマルグリット嬢は、間違いなく美少女であると断言出来る。身体全体から放たれる圧倒的なオーラは、この会場にいる全ての人たちを魅了する。
だがそんなマルグリット嬢の横には、誰もいない。マルグリット嬢の婚約者であるアルベルト殿下の姿はそこにはなく、誰も傍に付き添う事なくマルグリット嬢が階段を降りてくる。この瞬間、アルベルト殿下がこの場に来ていない事が確定した。
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