第33話

 玄関で初めましての挨拶を一通り済ませてから、イザベラ嬢の部屋に戻るのではなく、屋敷の大広間に向かって移動する。流石にこの人数では、イザベラ嬢の部屋の中に集まると狭くなってしまうので、大広間での作戦会議へと変更になった様だ。

 大広間に移動すると、そこにはアンナ公爵夫人の姿があり、それを見つけたジャンやマークたちはすぐさま挨拶へと向かう。俺は軽く周囲を見渡すが、カノッサ公爵やイザベル嬢のお兄さん方はこの場にはいない様だ。皆さんお忙しい方々だから、俺たち学生の様に決まった休日があまりないのも当然か。それに今回は、婚約者が決まっている男性だからというのもあるのかもな。

 それぞれが席に着いて全員の気持ちが落ち着いた所で、アルベルト殿下たちから、マルグリット嬢とナタリー嬢を守るための作戦会議が始まった。


「それじゃあ改めて聞くけれど、マリーさんもソレーヌさんも、私たちに協力をしてくれるという事でいいのね?」

「はい、当然協力いたします。日に日に、アルベルト殿下たちの言動は酷くなっていく一方です。中にはどう考えても無理がある様な事まで、マルグリット様が行った事だと高らかに仰っています。王家の方々には申し訳ないのですが、個人的に次の王がで大丈夫なのかと思ってしまう程です」

「私も、ぜひ協力させてください。それに、マリー様が仰った事については私も同じ意見です。殿下や側近の方々の言動には目に余るものがありますし、聞いたり見たりしたものの中には、非常に不愉快な言動もありました。私も個人的には、あの方々が次代の王政を担っていくと思うと、現段階では不安しかありません」


 マリー嬢とソレーヌ嬢二人の、不敬だと言われる事間違いなしの心からの厳しい意見に、アンナ公爵夫人が険しい表情になっている。アンナ公爵夫人が思っていたよりも、酷い状況である事に怒っているのだろうか?


「…………ジャンさんやマークさんも、私たちに協力してくれるという事だと思っても?」


 イザベラ嬢の質問に、ジャンとマークは気を引き締め直した表情をする。


「はい。私もマリーと同じく、皆さんと一緒に戦っていきたいと思っています」

「私もジャンと同じく、共に戦っていきたいと思っています」


 ジャンもマークも、一切動じる事なくイザベラ嬢に答えを返す。その様子に、イザベラ嬢たちだけではなく、アンナ公爵夫人も頷いて感心している。どうやら、マリー嬢やソレーヌ嬢だけでなく、ジャンとマークの本気度を知るために、アンナ公爵夫人がイザベラ嬢に頼んで質問した様だ。そして、アンナ公爵夫人が頷き感心しているという事は、合格と考えていいだろう。

 メイドさんたちが空気が緩んだ瞬間を読み、テキパキと手際よく、人数分の紅茶とお菓子をそれぞれの前に並べていく。最初にアンナ公爵夫人が紅茶を一口飲み、それに続いて皆も紅茶やお菓子に手を付けていく。


「うん、相変わらずいい腕ね」


 アンナ公爵夫人が柔らかい笑顔でそう言うと、大広間に張り詰めていた緊張感がなくなり、和やかな雰囲気に変わっていく。子供たちが気負い過ぎている事を察して、アンナ公爵夫人自らが率先して動いてくれた様だ。流石は、公爵家という力ある家を長年守ってきた女傑だ。

 こうして、アンナ公爵夫人の見事な手腕のお蔭で、和やかな雰囲気のまま子供たちの作戦会議が行われていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る