第21話

 恐らく、私が何を言ってもアホな男共は心から納得しないし、ローラも自分の意見を曲げることはないでしょう。なら徹底的に現実を知ってもらい、ぐうの音も出ない程に叩き潰されてもらうしかないわね。

 この不毛な茶番をさっさと終わらせるために、私はナタリーさんの方を向いて合図を出す。幸いナタリーさんも私の方を見ていてくれたので、直ぐに合図に気が付いてくれたみたい。そして、ナタリーさんは私に向かって頷いてくれたわ。


「私としても、嫌がらせを受け続ける事に対しては、早急に犯人を見つけて止めさせた方が良いとは思っているわ。でもね、嫌がらせ行為の犯人がマルグリット様だという証拠も無しに、ひたすらにマルグリット様を責め立てている殿下たちも、私はどうかと思いますわよ。……事の当事者であるナタリーさんは、この事に関してどう思ってるの?」

「嫌がらせ行為については止めて欲しいと思っています」

「ほら、彼女もこう言ってるじゃないか‼」

「ですが、私はマルグリット様が犯人であるとは思っていません」

「な、何⁉」

「私とマルグリット様は友達です。ですがそれ以前に、私とマルグリット様が友達になる前の面識は一切ございません。それこそ、嫌がらせ行為を面と向かってされた事もありません」

「……ナタリー、君は何を言っているんだ?もしや、マルグリットにそう言わされているのか⁉友達というのも強要されているんだろう⁉」


 私が切った切り札の威力が強すぎて、アルベルト殿下の思考回路がショートしかけているみたいね。それにアルベルト殿下は、ナタリーさんの心配をしている様でしていない。どちらかと言うと、マルグリット様を犯人として責め立てたい気持ちの方が強いみたいね。

 でも、それも仕方ないわね。アルベルト殿下はマルグリット様と婚約破棄をして、ナタリーさんと婚約を結びたいと思っているものね。……恋は盲目。今のアルベルト殿下にはピッタリな言葉ね。私もクララも、こうならない様に気を引き締め直さないといけないわね。


「いくら殿下といえども、それは決めつけが過ぎるのでは?」

「な、ナタリー?」

「嫌がらせを受けた被害者として、色々と気を遣ってくださるのは大変ありがたいと思っております。ですが、私が誰とどの様にお付き合いをしていようとも、失礼ながら殿下には関係ないかと」

「え、な?…………マルグリット‼こんな事をナタリーに言わせて、お前は恥ずかしくないのか‼」

「そうですよ。このような事を強要するなど、貴き血を引く公爵家の者とは思えません」

「何故国王様も、この様な女と殿下を婚約させたのでしょうか。理解に苦しみます」

「ここまで人の心がない非道な行いをするのが、少しでも同じ血が流れていると思うと吐き気がするよ」

「み、皆さま、なんて事を‼」


 アルベルト殿下たちがヒートアップしていく。最早その言動は、次期国王たる王子としては目に余るものね。そして側近たちも同様であり、次期宰相や次期魔法師団長、次期公爵家の当主として見ると、とてもではないが相応しいとは思えない程の醜態を晒しているわ。

 だがそんな姿を見て、ローラは口角を上げて笑みを浮かべているのが見える。ここまでの厳しい言葉でマルグリット様を責め立てたのは、ローラの中でポイントが高いと感じているのでしょう。

 でも殿下たちは大丈夫なのかしら。今の厳しい言葉の数々に、ナタリーさんはドン引きしてるわよ。今ここで一旦退かなければ、貴方方へのナタリーさんの評価は、一気に急降下していくわよ。

 そんな私の内心の思いに気付く事はなく、アホな男共とローラは、その後も仲良くマルグリット様に難癖を付け続ける。私やクララはともかく、マルグリット様やナタリーさんまでアホな男共やローラに対して呆れかえってしまい、その後は完全無視を決め込んで、スフレパンケーキを楽しんだ。


「マルグリット、いい加減に罪を認めて謝罪しろ‼ナタリーも、無理をしないで私を頼ってくれ‼」

「私も貴女の力になってあげたいと思っています。気軽に声を掛けてくださいね」

「俺も力になるから、何でも相談してくれ‼」

「私たちは何時でも待ってますからね‼」


 私たち四人の後ろからそんな声が聞こえるが、マルグリット様もナタリーさんもガン無視で取り合う事はないわ。今回の一件で、ナタリーさんはアホな男共への評価を大幅に下方修正したみたい。あの暴言の数々の途中から、あの四人に対する表情や感情が無になっていたからね。

 私は、最後まで自爆に自爆を重ねて終えたアホな男共に、心の中でご愁傷様と言って、四人で仲良く食堂から出ていったわ。

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