第22話

「…………といった事がありました」

「……お二人とも大変でしたね」

「ええ、それはもう」

「まあ私は何もしてないけどね。殆どイザベルが動いてたし」

「クララが傍にいてくれるからこそ、私も強気でいけるのよ」

「……嬉しいこと言ってくれるなあ‼イザベラ大好き‼」


 クララ嬢が、ニコニコの笑顔でイザベラ嬢に抱き着く。イザベラ嬢は、抱き着いて頬同士をスリスリしているクララ嬢の頭を、ゆっくりと優しく撫でる。何か二人の周りに、白い百合の花が咲き誇っている様に見える。

 まあそれはそれとして、今の話を聞いた限りだと、マルグリット嬢が悪役令嬢の立ち位置で、ナタリー嬢がヒロインといった所か。だがどちらかと言うと、ローラ嬢の方が悪役令嬢の雰囲気を漂わせているな。イザベラ嬢やクララ嬢からも、マルグリット嬢が嫌がらせをする様な下劣な人ではないという、お墨付きが出されている。それにナタリー嬢とマルグリット嬢の互いの面識が、二人に引き合わされる前にはなかったという点も大きいな。

 そう言えば、前世で読んだ事のある悪役令嬢ものの中には、転生者が悪役令嬢として生まれ、バットエンド回避のために色々と動いていたら、自分と似たような立場の人だったり、その人の取り巻き集団によって嫌がらせが行われるなどという展開もあった。

 これを、イザベラ嬢とクララ嬢の現状に置き換えてみる。所々で少し違うが、公爵家の娘と男爵家の娘という点、両者ともに魔法の才能が豊かであり、二人とも恋愛小説の登場人物に相応しい美少女である。イザベラ嬢は属性魔法の適性が高く、多種多様な属性の魔法を扱う事が出来る。そしてクララ嬢も同じく多種多様な属性の魔法を扱う事が出来、さらには非常に珍しい光属性の回復魔法を使う事が出来る。


(もしかして、この世界の悪役令嬢とヒロインって目の前にいる二人の事では?)


 だが、目の前にいる二人が本来は悪役令嬢とヒロインだったとしても、既に物語は違う役者で進んでしまっている。そして、よく言う様な運命の強制力とやらも、二人に働きかけている様子はなさそうだしな。恐らく配役はそのままに、この乙女ゲームの世界は進んでいくのだろう。

 だがそれにしても、マルグリット嬢とナタリー嬢は不憫だな。マルグリット嬢は、王子や側近たちがいい様にローラ嬢に操られて、何かあれば犯人である責め立てられる。ナタリー嬢はナタリー嬢で、嫌がらせ行為はされるし、王子たちには付き纏われる。そのせいで男子・女子問わず人が寄り付かなくなり、イザベラ嬢とクララ嬢が声を掛けるまでは、友達もロクにいなかったとか。それを聞いた時、思わず前世のボッチ人生を思い出して、涙がホロリと零れてきたよ。

 それにしても、悪役令嬢がローラ嬢だと仮定しても、ヒロインとなる女性が存在していない。恐らくナタリー嬢がヒロイン枠の女性なのだろうが、二人の話を聞く限りでは、王子や側近たちへの好感度はゼロに近しい。あったとしても小数点以下の数字なのではと思ってしまう。

 色々と考えを巡らせ終えると、いつの間にか二人の百合百合しい空間は消えており、二人がジッと俺を見ていた。


「えっと、どうかしましたか?」

「それはこちらのセリフですよ。私たちが二人でじゃれあってたら、急に黙り込んで考え事をし始めるんですから。……まあ、それはいいです。それよりも、今から本題に入りたいと思います」

「本題?」

「そうです。マルグリット様とナタリーさんには友達と呼べる人がいませんでした。ですが、今は私たちという友達がいます。しかし、私とクララは女性です」

「つまり男性である俺にも、マルグリット嬢とナタリー嬢の友達になってほしいと?」

「正解~。ウォルターさんがマルグリット様たちと仲良くなれば、こうして休日にも集まる事も、遊びに出掛ける事も出来るしね。良い事尽くめだよ。だから、お願いします」


 二人が揃って頭を下げてくる。付き合いは短いが、二人にそうさせるまでに、マルグリット嬢たちは良い子なのだろう。だとしたら、俺の答えは一つしかない。


「はい、分かりました」


 俺の了承に、イザベラ嬢もクララ嬢も、咲いた花のような華やかな笑顔を浮かべてくれた。

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