12-短編
那住錆
メランコリック
キッチンの換気扇が自棄に耳につき思考を掻き乱す。大きく煙を吸い込み息を止めながら口腔で待機させじわりじわりと外気へ押し出す。吐き出した言葉が脳内で繰り返し再生され、必要に失態を責め立てる。
「ちょっとお前こっち来いや!!」
「お前ここに置いてあったアイス勝手に食ったやろ?」
「何勝手に食うてんねん。今からコンビニ行って同じヤツ買ってこいや」
油蝉が外気の気温を更に掻き立てるように鳴く昼下がり、少しかび臭いそれでいて癖になるような香りを漂わせる店へ、貰ったばかりの桜が描かれた硬貨一枚を握り締めて飛び込んで行く。カラフルな色と形で目を楽しませる駄菓子は、希望と絶望を同時に与える。何度頭の中で計算しても手持ちでは足りず、選択を迫ってくるからだ。一つ一つ熱い視線を向け、味や食感を頭の中で思い描き想像を膨らませながら、じっくりと吟味する。首を回した扇風機の風がふわりと髪を持ち上げ、一つの大きな箱へ視線を誘導する。毎年都会から離れた片田舎へ連れてこられる鬱憤は、口の中に広がる事実が日常では味わえない哀愁を自分は体験しているのだという愉悦感を抱かせ、その瞬間もって昇天する。
煙草の予備補給に立ち寄ったコンビニで見つけた一つの商品は、懐かしい記憶を想起させ法則性を外れた行動を促す。思い返してみると徐々に来訪の頻度が高くなる男は、何か家にある物を消費する際常に此方を伺うような言葉をきちんと投げかけていた。関心の無い事柄へ適当に足らっていた事実は、自分にとって与えられるはずだった希望を奪った相手へ怒りとして爆発させるのは門違いだと告げる。
目の前に置かれた返ってきた『希望』の味は、甘くは無くほろ苦さを感じさせるだった。
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