5、大好き
放課後。
既に誰も不在になってしまった教室。
こんな時間まで何してんだろ私……。
1日中達裄とは会話が無かった。
というかあいつ昼ぐらいから学校サボっていなくなっちゃった……。
それくらい私の顔見たくなかったんだろうな……。
「くやしくないもん……」
別にバレンタインじゃなくたっていつでも一緒に達裄と居れるんだもん。
ただちょっとだけ特別扱いされない事に拗ねてるだけ。
誰も居ないしこの場で泣いたって心配されないもんね。
声を押し殺し涙が溢れる。
「ぐすっ……、あの馬鹿……。本当は私の事面倒でウザくて重いって迷惑してんだ……」
誰にも聞かれない空間での彼氏の愚痴ぐらい許して欲しいよね。
喧嘩してるわけでもないのに泣いてる私はもし喧嘩したらどうなっちゃうんだろう……。
「なんだお前自覚あるんだ」
「ふぇ……」
「面倒でウザくて重いって自覚出来てるなら治せばいいだろ」
「……なんでいるの」
急に現れた達裄にどう対処すればいいのか。
涙なんてみっともない物を見せられないので、制服の袖で涙を拭う。
「ほら、制服を汚すな。ハンカチやるよ……」
「……ありがと」
ヤレヤレって顔が物語っている。
この彼氏は女性の扱いが上手いのだ。
それでいて自分から女を裏切る真似はしない奴だ。
「あんた帰ったんじゃないの?」
「お前の本命チョコ貰ってないのに帰れないだろう。……まあ本当は昼寝してたらこんな時間になっただけなんだが」
嘘なのかどうかはわからない。
でも見透かされた気がするので腹が立つ。
「大体何肯定してんのよ!面倒でウザくて重くて迷惑してるって!」
「ちょっと待て、俺はそんなに肯定しちゃいない」
達裄が慌てて訂正する。
「面倒でウザくて重いしか肯定してない」
「いや全然変わらないじゃないの!」
「全然違うよ……。面倒でウザくて重い揚羽が好きなんだよ。だから迷惑はしてない……」
「たつゆきぃ……」
「むしろ女に振り回される俺に迷惑してんじゃないかって……」
「してるよ!」
「してんのかよ!?」
そこだけ治せ!
シスコンについてはもう口にしないから女性関係についてどうにかしろ!
「じゃああんた私に治して欲しい事言ってみなさい!」
「遠慮なく言うぞ」
「ドンと来なさいよ!」
「俺が揚羽に治して欲しいのがあるとすればだな……」
達裄が私をじっと見つめて言葉を溜める。
どうした何が来る?
「胸の大きさ、ちっちゃいんだよお前」
「酷い!?恋ちゃんや飛鳥ちゃんより大きいよ私!」
「競争相手が弱いわ!桜より大きくなれとはいわないがどうにかしろ!」
折角仲直りできる流れだったのに胸の漢字1つでここまで仲がこじれるもんなのですね!
「冗談だよ冗談。俺はいまのままのお前が好きなんだ。治して欲しい箇所なんてあるわけないだろ!これ以上胸大きくなったら別れるからな!」
「いやそれは困る」
私だって肩凝るくらい胸が大きくなりたいし……。
「ほら、達裄!」
カバンの中から1日中渡せなかったものを取り出す。
でもこんなんで許してあげる程私だって優しくない。
絶対にいじめてやり返す!
「これチョコなんだ」
「うん……、なんで開けちゃうの……?」
「それはねー……ふふふ」
今日1日ぶんのイライラを全部解消させるつもりである。
「私が食べるから」
チョコを自分の口の中に入れた。
茫然とする達裄なんてなかなかレアな表情だ。
「何がしたいんだよお前は!?」
何がしたいって……ねえ?
「達裄……」
決まってるじゃん。
「……あ」
私は達裄に顔を近付けて、――その唇に自分の唇を当てる。
「あげ……は……」
「たつゆき……」
そのまま舌を動かし、達裄の口の中にチョコを引き渡す。
私達が付き合ってから始めての
「どうだった達裄……?」
「おいしかったよ揚羽」
達裄の方から強く抱擁をされる。
私は彼に流されていく。
やばい顔を中心に全体に体温が上がっていく。
多分顔も恥ずかしいくらいにやけてる。
でも、伝わる彼の体温も私と同じ。
彼も恥ずかしくなると絶対顔を見せないプライドの高さと素直になれない気持ちで隠そうとする人なのだ。
だからお互い、顔は見れない。
さっき触れ合った唇で私達は語り合う。
これからの事。
まだまだ障害は全部取り除いてはいないけれど、これから治したり妥協したりと私が達裄に、達裄が私に近付いていく事を願いながら……。
「お前が好きで良かった!お前を選んで良かった!お前は完璧な女だよ!」
「うん。ありがとう達裄……」
――大好きだよ。
ハーレム後日談!-FIN-
HAPPY END!
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