第14話 7/2001・初都会

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【神暦1498年6月7日

 せっかくなのでそのまま二人と一緒に行動し、王都に入った。

 初めて見た大きな街というのは、なんというか興奮した。きょろきょろしてると、二人から妙に生暖かいような視線を受けた。あれはなんだったんだろう?

 二人は護導士組合に報告しに行くというのでそれにも同道。師匠から聞いたコネリーという人物がこの国の護導士であるなら、聞けば教えてくれるだろうと助言を受けた。

 その内組合に着き、二人には別れ際「またどこかで会えればいいね」と言われた。

 教えて貰った受付に向かい、対応している女性に護導士を探していることを伝えたところ、理由を聞かれた。その後なんやかんやあって後ろから出てきたホリスという男性を交えて話をした。自分の名字を名乗り、師匠の指輪を見せると、オレが“賢者”の縁者であると気付いたようだった。

 今日はもう遅いので会うのは明日にしろと言われ宿に泊まる。明日から本格的に王都での生活が始まるのだ】


メリエーラ王国・王都パルハ北門付近


 ケヴィン、ミュリエル、エムの三人はそのまま一緒に行動している。

 せっかく仲良くなったんだし離れて行動する意味ないでしょ、というエムの意見に残る二人も賛成した。

 王都までの道中、ケヴィンが護導士になるつもりである事や探し人も護導士であるという話になった。


「コネリーという名前の護導士なんだが、知ってるか?」

「コネリーねえ……聞いた事あるような無いような」

「私は同じ名前の人を知ってる、というかエムも知ってなきゃいけないんだけど、その人今は護導士じゃないんだ。

 ケヴィン君その辺りの事情はわからないの?」

「うーん、師匠の話もオレが生まれる前の話だからな……」


 結局コネリーについてはよく分からない、護導士組合で聞けば何か分かるだろうという話に落ち着いた。

 そして今度はケヴィンの方へと話が移る。


「ケヴィン君も護導士になるんだ。

 ふふ、ケヴィン君魔法の技量凄いから私たちなんてすぐに追い越されちゃうかもね」

「どうだろうな。

 討伐以外の仕事も多いって話だし、その辺りの常識欠けてるオレは不安だよ」

「ふふーん、分からない事あったら相談しなさい?

 “先輩”であるこのあたしが何でも答えてあげるわ」


 得意げに話すエムに対し、微妙にうざったいと感じるケヴィンは「はいはい」と手で振り払いながら相手していた。

 その様子をにこやかに微笑みながら眺めるミュリエル。

 三人の穏やかな会話は王都の門に着くまで続くのだった。


王都パルハ北門


 昼を3時間ほど過ぎ、ようやく三人はパルハの北門に到着した。

 外敵の心配はほぼ無く、治安の良い国であるメリエーラ王国。

 その王都も例外ではなく、都市を囲むような防壁は築かれていない。

 それでもさすがに国の首都を出入りする門だけあって、結構な数の兵士が門の周辺に詰めているようだった。

 三人は大した身元確認も行われず、ケヴィンとしては思ったよりもあっさり街の中に入る事になり、若干困惑気味だった。


「あんな簡単に通していいのか? と思ってしまうんだが……」

「私たちはこの記章で護導士ってすぐ判別できるからね。

 ケヴィン君の場合は見るからに旅人さんだし、危険そうな武器を持ち歩いていないからじゃないかな」


 胸元の銀製と思われる札形状の首飾りを持ち上げながら、ミュリエルはケヴィンの疑問に答える。

 “護導記章”と呼ばれるそれは護導士の身分を証明するものである。

 この記章に魔力を通すと空中に文字が浮かび上がり、その護導士の名前、格数、所属国などが傍に寄らずとも分かる仕組みとなっていた。

 ちなみにケヴィンはワイスタの記章を見た事があるので、その事に関しては二人に質問していない。

 そうこうしている内に門の建物を抜け街が見える所までやってきた。


「ほらほら、そんなどうでもいい事は置いといて早くおいでよ。

 ――ようこそ、王都パルハへ! なんてね」

「そんな風に言う事ないだろ……って。

 おおーーーーーーー!」


 そこにはケヴィンの見たことの無い風景が広がっていた。

 北街道から続く門前では、広い道幅がそのまま広場となっており、多くの出店が並びこれまた多くの人が行き交っている。


「すっご……こんなに人いるところ見るの初めてだ」


 ケヴィンの眼前にある建物はみな石やレンガ造り。

 それらがクル村にあったように雑な配置となっておらず、きっちり区分けされて街を構成している。

 この辺りの家々は一軒当たりの広さ、高さがそれほどでもない。

 いわゆる、下町ということになるのだろう。


「建物も凄いな……どうやったらこんな綺麗な街並みに出来るんだ?」


 道は舗装されており、それが都市の中央付近まで伸びていた。

 都市の構造を見る限り、中央に向かって低めの山のような形状となっているようで、斜面部にも多くの建物が見える。

 また、中央に行くに従って建物は高くなっているようだった。


「一体どれだけの人が住んでるのか、想像もできない程の家の数だな……。

 色々今までと規模が違い過ぎて、頭がクラクラしてきそうだ」

「ふふっ。ケヴィン君とっても目を輝かせてるね」

「思いっきりおのぼりさんだよねー。

 ま、あたしも覚えあるけど。

 そだ、北街道から続くこの道の名称は北大通りっていうから覚えておくといいわ」


 コクコク、とエムの得意気な声に頷きながら、ケヴィンはなおもきょろきょろと街を見回している。

 そして目に留まる王都の中央にある最も高い建物。


「あれが王城セドニクルだよ。

 ここメリソルク大陸の建築技術の粋を集めたお城なんだって。

 四方に建てられた塔といい、正面に見える大門といい、凄く綺麗だよね」


 街並みは赤や茶色、灰色などになっている。

 そこにおいてセドニクルと呼ばれたその王城は全体的に真っ白という印象を受ける程白く、城の造形も相まって「綺麗」と評するにふさわしいものだった。


「ふあぁーーーー……」


 ケヴィンは色々な意味で大きい王都というものに圧倒されている。

 そんなケヴィンを温かい目で見守る二対の視線。

 その視線はケヴィンの興奮が収まるまで続いた。


 ずっとそのままでいるわけにもいかず、程なくして三人は護導士組合へと向かう事に。


「パルハには北と南に組合支部が一つずつあって、西と東に支部の出張所があるわ。

 出張所っていうのは規模の小さい支部みたいなもので、その方面の小さめの依頼だったら受けれるって場所。

 依頼の報告は国内のどの支部や出張所で行ってもいいから安心して」

「確か、国内他の都市は支部がそれぞれ一つだけって師匠から聞いた事がある。

 その組合の建物が4カ所もあるのか……それも凄いな」

「パルハは国の首都だけあって広いからね。

 北支部はこの北大通りの中ほどにあるよ。行こう」


 二人に説明と案内を受けながらケヴィンは通りを進む。

 それなりの時間進んで見えてきた、周りより何回りかは大きい建物。

 その建物には上方に大きく紋章が描かれていた。

 紋章の中には二つのものが交差するような描かれ方がされている。


「あの紋章は何を描いてるんだ?

 二つあって横方向が剣っていうのは分かるんだが、もう一つ縦方向が分からない」

「あれは盾の側面を描いたものだよ。

 元は護導士の始まりである昔のウェルミア辺境伯が剣と盾を構えている図柄だったらしいんだ。

 でも護導士が世界各国に広まる上で、メリエーラの一貴族が描かれるのは良くないだろうって事で剣と盾だけになって、これが護導士共通の紋章になったの」

「「へえーー」」

「……なにエムまで感心してるのよ。

 私と一緒に教育受けたよね?」

「てへ」


 片目を瞑り舌をペロリと出してとぼけて見せるエム。彼女は万事こういう調子らしい。

 ミュリエルは溜息を吐きながらやれやれ、と首を竦めていた。

 空はそろそろ赤みが差してきており、間もなく夕刻。

 早く用事を済ませようと、三人は建物の中に入っていった。


護導士組合パルハ北支部


 夕方近い時刻ということで今日の仕事終わりが多いのか、受付の広間は結構な人数がいた。

 その様子を見たエムは少しげんなりしている。


「うわー、混雑に捕まっちゃったかあ。

 並ぶのやだなー」

「ほらほら、泣き言を言わないの。

 あ、ケヴィン君。

 私たちの報告はここ右側になるから。

 ケヴィン君は中央の窓口行くといいよ」

「分かった。

 色々ありがとうな。

 案内までしてもらって本当に助かったよ」


 ミュリエルとエムは依頼の報告があるらしく、ここでケヴィンとお別れとなるようだった。

 ケヴィンは笑顔で二人に感謝の言葉を告げる。

 二人も笑顔でそれに返すのだった。


「どいたしましてー。

 ま、あんたも護導士目指すっていうなら、その内会うこともあるでしょ。

 見かけたら声かけなさい。遠慮なんかするんじゃないわよ?」

「そうだね。

 またどこかで会えるといい……ううん、会おうねケヴィン君」

「ああ、ミュリエル、エム。またどこかで、な」


 ケヴィンは二人に向かって手を振りながら、再会の約束に応える。

 ミュリエルとエムも手を振り返し、そのまま多くの護導士が並ぶところへ消えていくのだった。

 一人になったケヴィンは若干の寂しさを感じる。

 だが旅出て初めて出会えた同年代者があの気の良い二人で本当に良かった、そうも思いながら中央の受付へと進んでいくのだった。

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