魂のすくいかた

桜咲 人生

第1話魂のすくい方

 ここはたった1本しか来ない、静かな駅。

 私の他には駅員は居らず、周りには何もない。

 お客様もあまり来ない。

 この駅の常連客などはいないが、私はお客様の事が好きだし、この仕事もを好きだ。

 好きを仕事に出来る、それはいい事だ。

 そして今日もまた仕事を始める。

 ここは始発なので、自分で点検等もしないといけない。

 私は準備をし、主発の合図を鳴らす。

 その後は自動でやってくれる。

 この後も仕事が続く、

「おや、何かお悩みですか」

 学校のジャージを着た中学生ぐらいの少年は一人静かに座っていた。

「なんで分かったんですか」

「分かるんですよ。私特殊能力を持っているのでね」

「はあ、そうですか。僕は悩みとかではなく、不安なんです」

「不安ですか」

「はいそうです。不安です。

 人間って未知の物を怖がると言いますけど、それって怖いんじゃなくて不安なんだと思います。

 来ると分かっていても本当にそうだと言いきれない。

 居るかどうか分からない物を、必ずいないとは言い切れない様に。

 そうゆうどうしようもない不安が、ブラックスワンが私に付きまとうんです。

 それに、残してきてしまったものも、今になって後悔しています」

「そうですね。戻れるとは言い切れませんからね。不安ですか、確かにこの先は不安ですね。

 私もこの先は分かりませんから。

 それはそうと、残してきた物とは一体なんですか」

 少年は俯きどこか暗い顔つきだった。

 それは絶望しているのではなく、ただ悲しんでいるだけのように見えた。

「僕の家族は一般的な家庭で、何不自由のない幸せの日常を送っていました。

 学校では友達もいて、とても楽しかった。

 それで僕は、高校に上がったんです。

 高校は楽しいとか、中学とは違うとか。

 世間一般ではそう思われているので、僕もそうだと思い、楽しみにしていました。

 そして、高校に入学。

 最初は普通だったんです。

 まあ最初ですから、友達もいません、1人です。

 別にそれでも良かっです。

 授業とかも案外楽しかったし、面白かった。

 でも、ある日から当然いじめを受けたんです。

 軽いいじめ、悪口とかですよ。

 でも、僕には辛かった。

 多分、共通の敵を見つけたかったんでしょね。

 そうしたら、友達もできる、楽しめる。

 いじめる側はそりゃいいことだらけ。

 一石二鳥、そんな事が分かれば皆やりますよ。

 それが毎日続きました。

 それで1ヶ月程度我慢しました。

 僕としては持ちこたえた方ですよ。

 頑張ったと思います。

 楽しさは堕落し、死んだ魚の目をしていたと思います。

 そんな時、母親に大丈夫?どうしたのって聞いてくれたんです。

 僕にとっちゃあ天からの声がかかったようなものです。

 それで、その日学校を休んだんですよ。

 そして次の日も次の日も。

 1回甘い蜜を吸ったら、もう辞められない。

 母親も父親も優しかった、怖いほどに。

 自分を認めてくれるし、許容してくれる。

 そして2ヶ月程度経ちました。

 そして僕にとっての最悪の節目の日がやってきます。

 忘れもしないその日は6月20日、期末試験の日でした。

 僕は真面目に勉強していたので、期末試験を別室で受ける事にしたんです。

 主席日数が足りない為、受けても進級なんてできないでしょが。

 それで行ったんですよ、そっからは真面目にテストを受け、終わり帰ろうとした。

 そうしたら、あいつらにあったんですよ。

 僕をいじめた奴らにね。そいつらは楽しそうに話しながら下駄箱に屯ってたんですよ。

 僕はそれを静かに見ていました。

 僕は奴らに嫉視でみていた訳ではなく、ただ呆然と奴らをみていたんです。

 ああそうか、僕はもう彼らの様にはなれないんだと。嫉妬ではなく、悲しさが込み上げてきたんです。

 すいません。なんかずっとひとりで喋ってしまって」

 少年はへへっと笑いながら答えていた。

 きっと辛かったのだろう。憧れていたものを、

 皆が持つ権利を手放してしまった事が、恨みよりも悲しみが込上げてしまうまでに。

 もう彼はトラウマを克服しているのだろう。

 きっと諦めることで。

 それはそうだ語れるさ、諦めた憧れの話なら。

 嫉妬ではなく後悔。

 そんな後悔、一体なんの役に経つというのだ。

「そこからの僕は酷かったですよ。

 何のために生きているのか、この先どうしたいのか、分からなかった。

 辛かった、怖かった、不安だった。

 自分が死んでしまうのではないか。

 そう思ってしまう事がとても多かった。

 歩いても歩いてもゴールにたどり着くことの無い迷路。

 皆は必勝法を知っているのに、僕だけが知らない。

 一人取り残される不安。

 怖かった。

 ただひたすらに怖かった。

 そんな事を考えて過ごしていたからかな、電車が来たんですよ。

 僕の乗る電車が、乗るべきと思う電車がね。

 駅にもいないのに、急にそれが目の前に来てそれで、乗ったんですそれに。

 その後はなんか記憶にないんですよね。

 それで今、ここに居る。

 長いこといる気がする。

 なんか分からないけど」

「そうですか。ならあなたは今何をしたいんですか」

 少年は少し頭を抱えながら悩んだが、結局何も分からなかったらしく答えなかった。

「別になんでもいいんですよ。誰かに謝りたいとか、誰かを助けたいとか」

「そんな事言ってどうするの?」

「それが少しでも貴方の助けになるのなら、そうしてあげたいと思うからですよ」

 少年はやはり何を言っているのかわからなそうな顔をした。

「そう思ういながら行くと、もしかしたら次もあるかも知れませんから」

「次ね、やっぱりそうだったのか。薄々分かっていたけど。だったらそうだな、とりあえずは両親に謝りたいかな。

 すごく迷惑かけてしまったし、急に消えちゃたし。

 そして、昔の僕に言いたい。

 逃げる事は覚悟のいることだって。

 逃げる事は甘い方に行くのではなく、辛い方に行くのだと。

 それを知っていたら、もう少しは戦えたと思うし。

 そして一つ教えたい。

 人生って案外面白いものだぞって。

 今思い返したら、以外に楽しかったし。

 別に人生に意味なんて求める必要なんてないし、世界だって広くない。

 だから、生きて欲しいって」

 走っていた電車が止まり、目の前のドアが開いた。

「じゃ、そろそろ行くわ。

 そういえばこの電車ってどこ向かってるんだ?」

「さあ、私は知りませんよ」

 私は知らない顔をする。

 実際知らないし。

「そうかい。まあ、ありがとう。

 次はあるかどうか分からないけど、もしあったら頼むわ」

 そう言うと少年は電車を降りた。

 去り際にこんな質問をされた。

「貴方の仕事ってなんですか?」

 少年は答えを聞く気など無いのだろうか。

 答えを待たずに降りてしまった。

 彼は一体どこに行くのだろう。

 有為転変、この世は変わり、そして儚い。

 そんな世界にこそ私のようなものが居るのだろう。

 私は少年に向かってこういった。

「貴方の魂を救う事ですよ」っと。








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魂のすくいかた 桜咲 人生 @sakurasakijinsei

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