第48話 ロボットと宮坂恵介の憂鬱 破

 団らんの話題は自然と夜襲の話になりました。ケイスケさんのお話を例によって私がまとめさせていただきます。


 デモンキラー中年の言葉に、ケイスケさんの胸のうちは様々な思いに占拠されました。


「それはいくら呼ばれたからって自分が元いた世界から出てくような輩が作る家庭なんてろくなモンじゃないからさ。転移者だなんだと言われているが、君たちは外国人だ、この国の人間じゃあない。自国でどうだったか知らないが、生まれ育った祖国を捨てる輩にろくな人間はいないよ」


それはそうかもしれない。俺が育った家庭だってろくなモンじゃなかった。ああはなりたくないともがいてきたが、結局、俺の親とは別の種類のろくなモンじゃない家庭に成り果てていたとしても不思議はない。


 ケイスケさん曰く、ご自身の育った家庭は家族仲が悪く、父親が暴力によって支配する家庭だったとか。それだけでスミス家とはだいぶ違うのではないか、と伝えると、そうならないようにしてきたが、自らの父親がロールモデル足りえない人物だったから、子どもにどう接すればいいかわからなかったのだとケイスケさんは言います。


 ケイスケさんがまだ宮坂恵介と名乗っていた頃は、本人からみてもどうしようもない不良少年で、家庭でたまったフラストレーションのやり場がなく、仲良くしてくれていた兄貴分に引きずられるようにして十四歳、今のチャーリーぐらいの年には街中で迷惑行為に及ぶようになっていたとか。


 時を同じくして、体格に優れていた恵介少年は、絶対的支配者だった父親に暴力である程度反抗できるようになります。例の兄貴分に習った喧嘩殺法も役に立ちました。家庭内暴力に悩んでいた母親や弟は喜んでくれるはずだ、と恵介少年は思っていました。魔王に立ち向かう勇者の気分でした。しかし母親も弟も喜んではくれなかった。面倒ごとを増やしてくれた、なんてことをしてくれる、そんな顔で恵介少年を見つめていました。恵介少年は不良仲間との付き合いに居場所を求めるようになり、父親との関係は顔を合わせるたび殴り合いになるまで悪化しました。


 しかしながら不良仲間との蜜月は三年と持ちませんでした。兄貴分が逮捕された一方で、リーダー格はより大きな反社会的組織である暴力団、異世界におけるマフィアに急接近します。いわゆるケツ持ちをしてもらう見返りに、金銭を渡したり組員への勧誘を受け入れたりしていたそうです。迷惑行為に及びながらも、マフィアになりたいわけではなかったケイスケ少年はだんだんと居場所がなくなっていきます。仲間の破壊行為は度を越していき、それを止めることのできない無力感に苛まれるようになりました。


 そしてある日のこと、こちらの世界の司祭の呼びかけに応じて恵介少年はこちらの世界にやってきました。十七歳の夏の出来事でした。生まれ育った祖国を捨てる、なんて高尚なことは頭の片隅にもなかった、とケイスケさんは言います。誰かに認められたくて、居場所が欲しくて必死になっていて、社会だの祖国だのましてや世界なんていう大きな視点はありませんでした。


  魔王と戦っている間はどんな人間だろうと助けが必要だった、とデモンキラー中年が言うように、周りには召喚された同じような年頃の転移者がたくさんいました。不良らしさ全開の見た目から最初は遠巻きにされていましたが、汗水たらして一緒に働くうちに仲良くなります。エディーのアルバイト先の店主、キンジョーさんこと金城和雄さんとはこの頃知り合いました。馬鹿でもできる塹壕掘り、とケイスケさんは自嘲気味でしたし、扱いは悪かったようですが。エディーの生みの母親であるエルフの女性レレリスと出会ったのもこの頃です。


 再び大きな転機が訪れたのはそれからわずか一年後。たまたま助けたご老人が、エドワード・クリストファー=スミス子爵だったのです。先代スミス子爵のことを、ケイスケさんは親父と呼びました。役人として貴族としてのケイスケさんを生み育てたのは、先代と言っても過言ではありません。それからというもの、恵介少年はケイスケ・ミヤサカ=スミスとして、この世界での居場所を切り開いていくこととなるのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る