家政婦JKと乱雑OL

クラウン メアリー

第1話

「これくらい片付けてくださいよ!」

「だって〜」

わたし(咲洲夢亜)は目の前のお姉さん(北宮姫子)に怒鳴った。

部屋中のゴミや洗濯されていない服。

食器や空の容器で見えなくなってしまっているキッチン。

それがわたしの怒っている原因。

「今から片付けるから……ね?」

「は?」

姫子が潤んだ目で訴えてくるがわたしは姫子を睨む。

「ごめんなさい。次はこうならないように努力します」

姫子はまずいと感じたのかすぐにゴミを片付けていく。

全くこの人は……。

「わたしもやりますよ。仕事ですからね」

自宅から持ってきたゴミ袋を鞄から出してゴミを入れていく。

「夢亜ちゃんありがとう」

「はいはい。ほら、手を動かす」

「はーい」

わたしと姫子は家政婦と雇い主の関係。

姫子がわたしを必要としなくなるまでわたしはここに来る。

そんな関係。


あれは確か二週間前のこと。

わたしの母親が家政婦のアルバイトを紹介してくれた日。

うちは父親と離婚して母親が育ててくれた。

収入源はスナックだけ。

正直のところそれだけじゃ心配なのでアルバイトは受けようと思う。

姫子は母親の同級生で親友らしい。

母親の親友なら安心できる。

知らない人の家に行くのになんの情報も無かったら心配だからね。

「いいよ。いつから始めるの?」

「今週の土曜日からなはずよ」

え?

カレンダーを見てみると今日は金曜日。

「………」

「あら?明日からだわ。頑張ってね夢亜」

……ほんとに信じてよかったのだろうか?

ま、いっか。

姫子さんね〜。

名前の通り可愛い人がいいなー。


「なんか……すごい」

目の前には三十階建くらいの高級マンションがある。

ほんとにここであってる?

わたしがいるのは姫子が住んでいるマンション。

母親から貰った地図にはこのマンションに印が書いてあるけど……。

「とりあえず入ってみよ」

自動ドアをを抜けてエントランスに向かう。

普通のマンションにカウンターなんてあるの?

ホテルじゃん。

あるとしたら大家さんが顔出しするスペースしかなくない?

それは寮かな?

「お客様。ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」

「あ、えっと607号室の姫子さんに頼まれてきました家政婦の夢亜です」

「確認しますね。もしもし姫子様……」

受付の人がいるとかマジでホテルみたい……。

「お待ちしました。姫子様のお部屋は六階になります。エレベーターは左手にありますのでそちらからお乗りください」

「ありがとうございます」

カウンターの人にお辞儀してエレベーターに向かう。

なんか緊張してきた。

エレベーターで六階に向かい607号室を探す。

「ええ〜っと。ここかな」

エレベーターから七つ離れた隅の部屋。

「すみませーん。咲洲夢亜です。家政婦としてきたんですけどー?」

「はいはいー」

「すみま……!!」

扉から出てきたのは下着姿の女性だった。

しかもかなりの美人さん。

露出した肌は日焼けを知らず金色の目は宝石のように輝いている。

下着は上下ピンクのフリルでとても可愛らしい。

「あら?もうきてくれたのね。わたしは北宮姫子。夢亜ちゃんでいいかな?」

「は、はい」

いきなり下着姿の女性が出てきて頭の整理がつかないけど姫子は気にしない様子。

「とりあえず中に入りましょうか。上がってちょうだい」

「はい」

部屋に上がってわたしは唖然する。

足の踏み場がない……。

玄関からリビングまで全ての範囲にゴミや服が散らかっている。

「床のやつは適当に踏んでちょうだい。そうしないとリビングまで行けないから」

「わ、わかりました……」

家政婦を呼ぶから汚そうだなとは思っていたがまさかこれほどとは……。

今すぐ片付けたい……。

潔癖症じゃないけど部屋が汚いのは嫌じゃない?

こんな汚い部屋を見たことない……。

高級そうな服や下着を踏んでリビングへ向かう。

「うげぇ……」

案の定悲惨な状況だった。

玄関と同様、服やら下着やらが散らかっていてお菓子の袋なんかも転がっている。

「汚い部屋でごめんねぇ〜。わたしの社会人性は全部お仕事に費やしてるの。だから片付ける暇がなくてね。明日から頼んでいいかしら?」

「別にいいですけど姫子さんがいいなら今からやりたいです」

こんな部屋を一日でも放っておいたらカビが生えそうで怖い。

「あら?それならお願いしようかしら。今からわたし、仕事でここにはいられないけど任せてもいいかな?」

「はい。何時くらいに戻られますか?」

「ん〜。夜の九時には帰るつもり……。あ!お金なら安心して。今から払うから」

「い、いえ!そういうわけではなく」

姫子は机の上に置いてある封筒を渡す。

「はい」

「え?」

「一応五万円入ってるけど足りるかしら?」

姫子が心配そうに聞いでくる。

ご、五万……?

一ヶ月分かな……?

「あ、あの〜」

「何かしら?」

「一ヶ月分ですか?それとも一年分ですか?」

一年分くらいでいいと思う。

「何言ってるの?今日の分よ。頼んだ日は毎回五万円。夢亜ちゃんの家は色々大変だろうから一ヶ月に一回は百万円を生活費として振り込んでおくわ。夢亜ちゃんのお母さんにはお世話になったらからお礼をしたいのよ」

「そ、そんなにいらないです!」

何言ってんだこの人は!

そんなに貰ったら金銭感覚がバグる!

「五万円でも多いのに生活費までもらえませんよ!」

「そ、そう……。それなら何円がいいの?あんまり低いのは申し訳ないから最低額は一万円ね」

「え……」

一万でも多いよね……。

「時給千円でお願いします」

「え〜低すぎるわよ。あ、じゃあこうしましょ」

姫子が何か思い付いたように手を叩く。

「わたしが夢亜ちゃん家の生活費を払っていいならそのプランを引き受けるわ」

「それは流石に……」

「お願い〜」

「えー」

「夢亜ちゃんのお母さんに……香澄にはお世話になったの!だからこれくらいはさして?」

「……」

お母さん……何したのまじで……?

生活費を払ってくれるほどの恩って何?

「わかりましたよ。これからよろしくお願いします姫子さん」

「ありがとう夢亜ちゃん!んっ!」

姫子は頭を上げてわたしにキスをする。

「んっ!」

え?

思考が停止する。

「それじゃあ、お仕事に行ってくるね。ロビーの人に帰った時間を言ってちょうだい。今は一時だからそこから計算して次回の時に渡すわ。ああ、着替えないと!」

「いってらっしゃい……」

カッターシャツとスカートを着て玄関に向かう。

「行ってきまーす!」

「……」

扉が閉じられる音がして意識が戻る。

「何だったの……?」

わたしは一人呟いた。

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