第7話
まともに食らってしまえば自分の影ですら残らないような攻撃であった。その威力は英雄様と呼ばれるだけの力はあるのだと感心していたほどである。
「どうだ、人の忠告を聞かないからこんなことになってしまうんだ。お前たち異世界人は何度でも蘇ることが出来るから遠慮せずに使うことが出来るわけだが、この技は俺にとっても負担が大きすぎて使う事を控えていたのだ。貴様が再び蘇って俺の前に現れた時はこの俺様に頭を垂れて許しを請うのだな」
「さすがは英雄様。我らが人類の大いなる希望であり、神に祝福された子よ。しかし、威力が強大すぎで忌々しき異世界人の死体を確認することも出来ぬようだ。皇帝陛下は何よりも異世界人の死に顔を肴にするのが好きゆえ、次回からはなるべく威力を抑えるように頼むぞ」
「はい、次があればですけど、あいつは口では強がってはいたようですが、俺の攻撃を受けた事を思い出して今頃は生き返ったことを後悔しているところではないでしょうかね」
「そうだな。あいつらは何度でも蘇ることが出来るのだったな。しかしだ、なぜ神々はあのような者達に永遠の命をお与えになったというのだ。我々のように神を敬うこともせずただ己の欲望に従って生きるようなクズ共が死を恐れることもなくのうのうと生きていることが許されるのだ」
「司教様。そうおっしゃらずに気楽に考えていきましょう。奴らは何度でも生き返ることが出来るだけで我々人類に対して剣を振ることも魔法を唱えることも出来ないのです。我々にとっては何の脅威にもなりえないうえに、私ども英雄にとっては技の実験体としてもストレス発散の道具としても役に立っておるのです。あいつら同士で殺し合いをさせることも出来ますし、我々の手によって一方的に屠ることも出来るのです。永遠の命を与えられたとしても、その使い道が我々人類の慰み物としての価値しかないという事を考えれば、俺は異世界人ではなく人類であって良かったと思いますよ」
「確かにな、英雄様の言う事も一理あるな。ただ、神が異世界人をこの世界へ連れてきている理由も忘れるでないぞ」
「ええ、俺たちのストレス解消のはけ口だけではなく、魔王討伐の駒としてはもちろん、いまだにその存在するという痕跡すら掴ませない悪魔どもの探索にも死なない異世界人は役に立ちそうですからね。我々人類の限りある命ではたどり着けない場所も多々あるようですし、異世界人の軽い命と蘇る力があれば世界中どこでも探せると思いますからね。私が殺したこいつが再びここへ戻ってきたのならば、きっといい駒として俺達の期待に応えてくれると思いますよ」
「そうだな。あの者は英雄様の攻撃に多少は耐えていたようであるし、魔王の使い程度ではそうやすやすと命を奪うことも出来そうにないからな」
「ちょっと待ってください。俺の攻撃に耐えていたってどういうことですか?」
「どういう事も何も、あいつは英雄様の攻撃を正面から受けておったぞ。数秒でその姿は確認することが出来なくなっていたが、英雄様の力に圧倒されていたのでしょうな」
「それはおかしな話ですよ。俺の技は相手のエネルギーを奪って力に変えて攻撃する技なのです。あいつの力を吸収して無くした状態で攻撃をしているので耐えることなんて出来ないはずです。本当に数秒は耐えていたというのですか?」
「ああ、間違いなく耐えていたぞ。この目でその姿は見ていたし、他にも見ていたものはたくさんおるのだからな」
「俺のこの技は魔王ですら耐えることが出来なかったのですよ。今までだって誰一人として耐えることが出来なかったんですよ。それなのに、数秒は耐えていたって、どういう事なんですか?」
「どういう事と私に聞かれても困るのだが。おそらく、見間違いではないと思うのだが。なあ、お前たちも私と一緒に異世界人が耐えている姿を見ていたよな?」
「はい、私達も司教様と一緒に見ておりました。恐れながら申し上げますが、あの異世界人は英雄様の攻撃を耐えるというよりはあえてその身で受けることによってどのような物か確かめているようにも見えました。これは私の思い過ごしかも知れませんが、英雄様の攻撃に向かって異世界人自ら手を伸ばして触れようとしてたように見えました」
「そんなバカな話があってたまるか。あの技は魔王ですら触れただけでその全てを消し去ることが出来るのだぞ。それを、自ら手を伸ばして触れるなど不可能だ。俺だってあの攻撃に触れた瞬間に死んでしまうのだぞ。たかが異世界人ごときがそのような事を出来るはずがない。司教様もそうですが、お前たちは何か見間違えをしているのではないか?」
「そんなはずはないと思うのですが、私どもも司教様も異世界人が英雄様の攻撃を受けてもなお行動をしていたことに驚いておりました。もしかしたら、あの技は今までの物とは違い多少は命を奪うことに猶予を与えて己の罪と向き合う時間を与えているのかと思っていたのです。英雄様の様子を見ていますと、それは違うのだとわかりますが」
「もういい。あいつが耐えていたかどうかは重要じゃない。今重要な事はあいつが死んだという事実だけだ。そして、あいつは異世界人なんだからこの世界のどこかに産み落とされているはずだ。そこを探し出してあいつを新自由帝国の駒として手中に収めなければいけないのだ。いや、そうしなければとんでもない脅威になりえるのやもしれない」
「待たれよ。英雄様は何をそれほど焦っているのですかな。我々にとって異世界人は戦争の駒であり娯楽の為の道具にしかすぎぬのですよ。何よりも、異世界人は我々人類に手を下すことは出来ないのですよ」
「確かにそうではあるのだが。考えてみると、あいつは我々人類を攻撃することは出来ないのだが、同じ異世界人を攻撃することは出来るであろう。すなわち、我々の駒を亡き者にする可能性もあるという事なのだ。駒が多少減ることは問題も無いと思うのだが、あいつに何か恐ろしい攻撃手段でもあったとするのならば、それは十分に脅威となりえるのではないかと思うのです」
「英雄様が心配する気持ちはわからなくもないですが、そのような不確定な要素で悩むなどいささか慎重すぎやしませんか?」
「司教様はそう考えるのかもしれませんが、俺には考えてみたくもないような事が頭の中に浮かんでいるのです。それによっては、我々人類が異世界人の手によって命を落とす可能性すら出てくるという事です」
「それはどういう意味ですかな?」
「司教様たちはあの異世界人が俺の技を食らって手を伸ばして触ろうとしていたように見えたのですよね?」
「ああ、そう見えた者もいるようだが。あいにく私の見ていた角度からではその場面は見えなかったがね」
「それって、あの技を知らべて使おうとしているという事ではないでしょうか。もしもそうだったとしたら、俺達はあの技をまともに食らって生き残ることなんて出来ないと思うのです。ただ、あの技を俺達に向かって使う事は出来ないと思いますがね」
「そうであろう。英雄様のその考えが正しかったとしても、我々に直接攻撃することは出来ないのだから、心配する必要もないというのだ」
俺はそっと英雄様の後ろに立ってその顔を両手で掴んで思いっきり捻ろうとした。捻ろうとしたのだが、顔を触ることが出来ても手を動かすことが出来なかった。英雄様の首をねじ切ろうとしたのだけれど、俺の体はそれを拒んだのだ。
本当に攻撃する事って出来ないんだな。そう感じる出来事だった。
英雄様は俺の手を払いのけてからゆっくりとこちらに振り返ったのだが、その時の表情が何とも形容しがたい素晴らしいモノであった。映像として残しておかなかったことをいまだに後悔してしまうのだが、撮影していなかったことを悔やんでも仕方ないのだ。
英雄様も司教様もその周りにいる現地民たちも皆驚いているようではあったが、俺はそんな事を気にすることも無く英雄様の顔を何度も何度も触っていた。何故か、口と鼻を同時に塞ぐことは出来なかったんだけどね。
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