第16話 叶恵


 「デート?」


 「そう、デート。付き合ってないにしろ、幼馴染なんだし買い物ぐらいには付き合ってくれるんじゃない?」


 昼休みの教室で、クラスメイトの優花里ちゃんに言われたのは、洋介とデートをしてみてはどうかと言うものだった。

 優花里ちゃんは、私が洋介に恋心を持っている事を知っている。

 なのでこの様に、恋バナの一環でアドバイスをしてくれる事があるのだ。


 「……多分、大丈夫だとは思うけど、あんまり変わんないと思うよ?」


 私は微妙な表情をして優花里ちゃんにそう返す。

 洋介と二人で買い物なんてもう何回も行っている。今更行ったとしても、何か特別なドキドキが生まれる訳でも無いし、恐らく洋介の部屋に入り浸っている時と、同じ様な状況になるだろう。


 「……なんか、付き合っても無いのに倦怠期のカップルみたいな事言うね」


 なんとも言えない微妙な顔になって、優花里ちゃんはそう言う。

 まあ、こればかりは幼馴染が居なければ分からない感覚だろう。お互いに知り尽くしているが故、新しい発見が全くと言って良いほど無いのだ。


 「うーん、今更何か恋人っぽい事をしてもねぇ……」


 私は腕を組み、難しい顔をしてそう言う。

 もう長い付き合いで、相手の家で手料理を振る舞ってもらう程の間柄だ。

 私が洋介の事が異性として好きなのは確かな事だが、"付き合いたいか"と問われると、答えはイエスでは無い。


 「何それ、じゃあ三笠君とは恋人同士にならなくて良いって事?」


 「……そう言う事じゃ無いけど……」


 優花里ちゃんの問い掛けに、私は曖昧な返事をしてしまう。

 私は今、現状に満足をしている。洋介の部屋に入り浸り、偶に料理を作って貰ったり、偶に愚痴を聞いてもらう。

 付き合っていると言う事実は無いが、この関係性が一番心地が良いのだ。

 それに、前にも話したが、恋人になる事で、今の関係性が崩れるのが怖いと言う事もある。

 しかし、それには一つ問題点があった。


 「はぁ……そんなんじゃ、その内誰かに取られちゃうかもよ?」


 「そこなんだよなあ……」


 痛いところを突いてくる優花里ちゃんに対し、私は机に項垂れて弱々しい声を出してしまう。

 私と洋介は付き合っていない。その事実はつまり、他の女に洋介が取られるかもしれないと言う事だ。

 彼は優しい。ふとした弾みで彼が女の子に優しくすると、その女の子が洋介の事を好きになるかもしれないのだ。

 今でこそ幼馴染と言う立場を利用し、洋介の目をこちらに向けさている。

 だがもし、洋介に私以外の好きな人が出来たとしたら?もしくは洋介を好きになった女の子が必死に洋介を振り向かせようとしたら?

 わたしがこうして曖昧な返事をしてしまうのは、そう言う理由があった。


 「はあ、面倒くさいなぁ。幼馴染って……」



 どうにも素直に好きとは言えない関係性。それが幼馴染と言うものなのだ。


 

 

 


 


 



 


 



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