溶け合う記憶

 俺は本を閉じた。

 俺は最後の一文に聞き覚えがある気がした。

 それを確かめるために、俺は文字を喰らった。


                  ♢


 本だったものを持ち、諒の部屋の扉を叩いだ。返事を待っていると、扉が開いた。

「どうしたの?」

 そう顔をのぞかせる諒は、体調が悪そうだった。

「あぁ、話したいことがあってな。それよりも大丈夫なのか?」

「うん。それより、話ってなに?」

 そう言いながら諒がふらついた。俺はとっさに扉を開け、体を支える。諒の体は、明らかに熱を帯びていた。

「熱があるじゃないかよ。とりあえず、ベッドに行くぞ」

 諒の体を支えながら、ベッドへと歩く。

「諒、もしかして喰字期なのか?」

 それを聞いた諒は少し驚いた顔をした。そして、

「どうして?」

 と、俺に微笑んだ。

「あぁ。これをみたからな」

 俺は本だったものを、諒に見せた。

「なにこれ? なにも書いてないけど」

「あぁ、喰っちまったからな」

 それを聞いた諒は、度肝を抜かれたようだった。

「え、まって、漣も喰字鬼なの?」

「そうだ。それで、この日記みたいな本を喰ったんだ。だから、もう隠さなくても大丈夫だ。母さんの日記とか、俺たちの手紙を喰べたことも、お前が本当は弟だってことも。」

 それを聞くと、諒は俯いた。

「軽蔑したでしょ」

 そう呟くように話す諒の頭に手を置き、くしゃっと撫でた。

「そんなわけないだろ。それに、諒の気持ちは伝わってきたしな」

 それを聞くと、諒ははっとしたようで、手で口を覆い恥ずかしがるそぶりをみせた。

「ど、どんなこと書いてあった?」

「教えない」

 むっとする諒を横目に、窓の外を見ながら話し続けるた。

「俺には、母さんの記憶とか、兄だった記憶はほとんどないけどさ。諒のおかげで、自分の過去を知ることができた。だから、そんなに負い目を感じないでくれよ」

 諒は黙って俺の話を聞きいていた。

「隠し事はお互い様だった訳だし。これからはさ、相談し合って、ふたりで悩まないか? たったひとりの家族なんだからさ」

 諒を見ると、俯いたままこくりと頷いた。

「こんな駄目な兄だけど、これからもよろしくな」

 俺は兄として諒に話しかけた。

「うん。これからもよろしくね、兄さん」

 諒は、はじけるような笑顔でそう言った。

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