気づけない幸せ

 俺は本を閉じた。

 俺は最後の一文に聞き覚えがある気がした。

 俺に言った言葉に絡めて、わざわざこの物語を書いたのだろう。喰字鬼についてあんまり興味がないって言ってたのにな。早く感想を書いて、諒へ持って行こう。そう思い、俺は文字を書き綴った。


                  ♢


 本と紙を持ち、諒の部屋の扉を叩いだ。返事を待っていると、扉が開いた。

「もう書けたの?」

 そう顔をのぞかせる諒は、体調が悪そうだった。

「あぁ、それよりも大丈夫なのか?」

「うん。それより、書いてくれたんでしょ?見せてよ」

 そう言いながら諒がふらついた。俺はとっさに扉を開け、体を支える。諒の体は、明らかに熱を帯びていた。

「熱があるじゃないかよ。とりあえず、ベッドに行くぞ」

 諒の体を支えながら、ベッドへと歩く。

「薬は?」

「さっき飲んだよ」

「じゃあ、取り合えず横になって休んで。本と紙はここに置いておくから」

 俺は諒の机に本と紙を置き、部屋を出た。

 ふいに何かを忘れた気がした。

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