文化祭実行委員-Boy's side-「君との恋の物語」spin-off
日月香葉
第1話
俺の生き方を一言で表現しようとすると難しいが、一つだけはっきりとした考えがある。それは、「他人に期待しないこと」である。
俺にも親や尊敬できる先生、それに数は少ないけど友達と呼べる人もいる。だけど、過度な期待はしない。○〇なんだから、やってくれるだろう。とか、そういう考えはまるでない。
自分のことを一番に考えているのは自分だけ。親であっても、他人(自分以外の人)である以上、皆自分のこととしては考えない。
当たり前だろうと思う。皆、自分以外の他の人なんだから。
それに、俺にはその考え方でいられる環境も整っている。
例えば、高校受験の時。俺は自分で行きたい高校を選び、親に報告した。相談では、なく、飽くまで報告だ。
「○○高校に行きたいです。理由は、自分の学力なら問題なさそうだし、剣道もそこそこ強いから。後、指定校推薦に東光大学体育学部体育理論学科があるからです。」
母さんは黙っていたけど、父さんの答えは至ってシンプルだった。
「そこまで考えているなら、頑張りなさい。」
母さんは、それを聞いて笑顔で頷いてくれた。
あ、でも後日、母さんがこんなことを言っていた。
「父さん、なにも言わないけど、あなたのことを心配しているわ。大学の志望校まで今から決めなくてもいいのにって。あ、それは、あなたの考えを否定しているとかじゃなくて、もし高校に通っている三年間で他にやりたいことが出てきたら、素直に言ってほしいって言う意味よ。」
『ありがとう。もしそうなったら、ちゃんと言うから大丈夫だよ』
これは本心である。
基本的には自分で考えて、自分で決める。だけど、やりたいことが他に出てきて、自分の中でそれが一番になったら、ちゃんと報告する。
俺の両親は、俺の考えを否定はしないし、過度な心配もしない。だから俺は、割と早い段階から自分だけで考えて多くの事を決められた。
両親のそういうところには、本当に感謝している。
こうして自分で決めた志望校に合格し、指定校推薦をもらう為に常に学年20位以内に入れるように勉強も頑張ってきた。
そして、高校3年生になった今も、それをずっとキープしている。
俺達の学年は、全8クラス。うち普通科が6クラス、商業科が2クラス。その普通科6クラスのうち1組と2組だけは成績で決まっている。俺達の学年は1クラス30人なので、1組と2組は、学年順位60位までの生徒ということになる。その2クラスは通称「進学クラス」と呼ばれている。
俺も当然、「進学クラス」だ。
東光大学はそれなりにレベルが高いので、指定校推薦で楽に入ろうなんて思っている生徒では、まず入れない。
それに俺は、勉強自体は嫌いではないけど、短期集中で受験のためだけに勉強するというスタンスがあまり好きではないので、3年間かけて勉強する癖をつけて、ちゃんと自分の知識として残せるようにしたかった。そのため、一般受験ではなく指定校推薦という選択肢を取ったのだ。
学年順位自体は、もしかしたらもう少し上を狙えるかもしれないけど、俺は、必要最低限の条件を満たしていればいいので、無理して狙ったりはしなかった。
もっと上の順位は、もっと上の大学を目指すやつが取ればいい。
俺には必要ない。
こんな感じで、妙に自立した性格になってしまった為、必要以上に友達を作ろうとも思わなかったし、恋愛にはもっと興味もなかった。
それに、こんな俺には何かを相談にくるやつはいない。世間話をしにくるやつもいない。
高校で友達と呼べるやつがいるとすれば、それは吹奏楽部で、同じ進学クラス(クラスは別)の樋口恒星や、剣道部の主将くらいか。
恒星とは高校1年の時に同じクラスになって、ひょんなことから剣道の話になって仲良くなった。どうやら恒星も、昔は剣道をやっていたみたいだ。
そして、この樋口恒星という男は、同い年とは思えない程にどこか達観したような雰囲気がある。それに、知識も豊富な上社交性もあるので、俺は同い年ながら尊敬している。
さらに言うなら、恒星は俺の生き方や考えをよく理解してくれた上に、友達でいてくれている。
すごい男だ。
ん?そういえば、樋口がこの間妙なことを言ってたな。なんだっけ?
5月。GWを終えて、一番最初のロングホームルームの議題は「文化祭について」
つまり、文化祭で自分たちはどのような展示をするのか、誰が中心となってそれを進めるのかというもの。今回は、後者を決めるのがメインの議題になる。
クラス委員が前に出て進行しているが、なんというか、進行の仕方が悪い。
「誰かやりたい人はいますか?」なんて聞いてても絶対出てこないだろう。
そういうのを好んでやりたがるような生徒も、学年トップレベルの生徒だけが集められたこのクラスにはいないだろう。
「やりたい人がいないなら、推薦はどう?」
そう言ったのは山本さぎり。友達と言う程親しくはないけど、中々信用できる人だと勝手に思っている。というのも、この山本は先程の樋口恒星の彼女だからだ。
クラス委員長も、山本の言葉に活路を見出したのか、一瞬でそっちに舵を切った。
「立候補か、推薦です。皆さんどうですか?誰もいないなら、私から推薦してもいい?」
。。。山本を推薦するつもりだろう。
なんて単純なやつだ。議長が意見を出すタイミングではない。
「推薦、いい?」
こう発言したのは、山本だった。
なるほど、最初から推薦できる人物に心当たりがあったのか。
「はい、どうぞ」
これは委員長。
「夏織。あ、東堂さんがいいと思います」
東堂?あぁ、吹奏楽部の東堂か。あれ?どっかで名前を聞いたような。。。
「東堂さん、どう?引き受けてくれるかな?」
いきなりか。笑
まだ一人しか推薦されてないのに。
「どうって言われても。。そもそもなんで私を推薦したの?」
これはその東堂の発言。
「あ、そうだね、ごめん。さぎり、どうして東堂さんを?」
議長。。
あ、思い出した!東堂!!あれだ、この間話しをした時に、恒星がやたらと褒めていた生徒だ!
「うん、夏織って、実は結構意見をまとめるのとか上手で、色々なことよく知ってるし、どうかな?って。」
これは山本の発言。
確かに恒星もそんなことを言ってたな。
部内での相談事は東堂に話すことが多いんだとか。そもそも恒星に他人に相談しなきゃいけないようなことがそんなに沢山あるとは思えないんだけどな。
それでも、この東堂という生徒は、恒星程の人物にも影響を与えているということか。
あぁ、話が逸れた。
で、この流れを受けて当の東堂は一体どんな反応をするんだろうか?
「いや、向いてないって。私には」
「んー、私もいいと思うけどな、東堂さん」
。。議長の返し言葉はあまりにも浅ましかった。
が、この山本の推薦は、恒星の推薦みたいなもんだ。どうせこのまま黙っていてもきまらないだろう。と意を決して。
『俺も、東堂さん、いいと思う。』
と挙手しながら発言した。
「柳瀬君、よければ推薦の理由も聞かせてください」
と委員長。君とは違うんだよ。答えはちゃんとある。
『うん、東堂さんは、成績もだけど結構頭の回転が早くて、山本さんの言うようにまとめるのも上手いと思うから、かな。根拠は、隣のクラスの図書委員のやつからの評判です。』
また聞きの話だけど、山本と恒星が言うなら間違いないだろう。
それに、東堂という生徒をよく見てみるとその整った顔立ちは、なんとも気品が良く、賢そうな感じはする。
まとめるのが上手いかどうかは別にしても、実行委員をこなす能力は余裕であるんじゃないかと思う。少なくとも委員長よりは全然いい。
「東堂、いいんじゃないか?せっかくみんなに推薦されてるんだし、俺も、お前ならできると思うぞ?」
先生。急に参加してきたなと思ったら次の瞬間にはもっと思い掛けないことを口にした。
「あと、男子はどうなんだ?柳瀬、お前はどうだ?東堂と二人なら、十分できそうに思えるが」
どういう組み合わせだよ。
東堂はともかく、なんで俺なんだ。
「どうだ?どうしてもの理由がないなら二人でやってもらえないか?このままだと、他には誰も出てこないぞ」
まぁ、それも一理あるけど。。
人のことを推薦しておいて自分は断固拒否って訳にもいかないか。。
その点、現状ならペアを組む相手は東堂と決まっている。
人となりは知らないけど、能力だけならまず問題ない相手だ。
これで相手が委員長なら絶対断るけど、まぁそもそも俺が委員長を推薦することもないだろうし。。。
やるか。幸い、ここまで積み重ねてきた実績のおかげで、指定校推薦もほぼもらえることで確定している。
高校生活最後の年に、少し変わったことをやってみるのもいいだろう。
『わかりました。やります。』
そんな訳で、半ば強引に文化祭実行委員に選出された俺達は、さっそく職員室に呼ばれた。
「悪かったな、強引に決めちゃって」
自覚はあったのか。笑
それにしてもその笑顔はなんだ。絶対悪いと思ってないだろう。笑
「実は、うちのクラスは一般入試で受験するやつが多くてな。お前たちは指定校組の中でも優秀だし、ほぼ確実に推薦ももらえるだろうと思ってな。」
ほぅ。ということは東堂も指定校を狙っている訳か。
いやいや待て、指定校組だからって俺達が勉強しなくていいわけではないぞ?
「それに、なんだ、お前たちを見てると、ちょっともったいないなと思ってな」
なにが
『なにがですか?』
思った時には言葉が出ていた。
「お前たちは、他の生徒と比べても、すごく能力が高い。でも、あまりそれを見せないから、周りの生徒はほとんどそれを知らないと思うんだ。」
知らせる必要はないだろう。別に注目されたいわけではないし。
「まぁ特別誇示する必要もないが、実行委員を通して、皆ともう少し深くかかわってほしくてな。それで、お前たちを推したんだ。」
ほぼ強引に決めたくせになにを今更。
まぁ、引き受けた以上は責任は持つが。
「よろしく、頼む」
なんと、先生が俺達に頭を下げた。
わかりましたよ。先生にそこまでされちゃね。
「わかりました。こちらこそよろしくお願いします。柳瀬君、よろしくね。」
東堂も、思ったより友好的じゃないか。
『うん、こちらこそ』
彼女のはっきりとした口調に負けないように、俺もはっきりと答えた。
その後、先生と打ち合わせをして、一学期の間のロングホームルームから3時間を文化祭で使わせてもらえることになった。
東堂は思ったよりもよく喋り、先生と打ち合わせをしていた。
恒星の言う通り、相当頭の回転が速く、クラス全体のことをしっかりと把握しているような印象を受けた。
東堂となら、良い文化祭にできるかもしれない。
無論、過度な期待はしないけど。
さて、夏休み前には何をやるか決めなきゃな。
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