文化祭実行委員-Girl's side-「君との恋の物語」spin-off

日月香葉

第1話

私流の失敗しないための流儀は、「他人に期待しないこと」である。

〇〇なんだから、やってくれるだろう。

みたいに考えないということ。

自分のことを一番に考えているのは自分だけ。他人は皆、親であっても私のことを自分のこととしては考えてくれない。せいぜい、 (自分のことのように)である。

当り前よね、そんなの。親であっても、それは自分とは別の人なんだから。

これだけ聞くと、まるで私が他人のせいでひどい目にあったように聞こえるかもしれないけど、そうではない。

ただ、他人に頼って失敗するくらいなら、最初から自分のことは自分で考えようと勝手に思い至っただけ。それに、ある意味私は恵まれている。

なぜなら、そんな私を、私の周りにいる家族や友達は一切否定しないから。特に親には感謝している。約2年前の高校受験の時、自分の実力や、進学先高校卒業後の進路も含めて、私はすべて一人で決めた。決めたことを希望として報告した。(○○に決めました、じゃなくて〇〇にしたいですって言うってことね)

私が希望した高校が、そもそもそんなに学力が低くないところだったからなのか、親は何も聞かずに承諾してくれた。特に私の父は無口なので、『わかった。頑張れ』としか言わなかった。

ちなみに、誰にも話してないことだけど、私は高校受験の段階で、志望の大学も学部も決まっていた。

東光大学理工学部建築学科。

そもそもこの高校を選んだ理由は、東光大に指定校推薦枠があったからである。

だから、私の大学受験は高校生活スタートと同時に始まっていた。定期テストでは常に上位(学年20位以内)に入り、部活動も続けている。委員会では図書委員長も務めている。

まだ高校三年生になって間もないけど、このままいけば指定校ももらえるだろう。

おおよそ計画通りだわ。

指定校推薦なんて聞くと、一般入試を受けるよりハードルが低いと感じるかもしれないけど、私はそんなことはないと思ってる。

希望する大学があって受験する人は、どちらも同じくらい勉強すると思う。

入学当初からコツコツやるか、入試前に一気にやるかの違いだけ。

私は性格的に短期集中の勝負に弱いので、指定校を選んだだけ。

希望している東光大は、それなりのレベルだし、希望者も結構いるので、そもそも楽したいだけで指定校を選んでるような人にはまず無理だと思う。

本当は学年1位を取って文句なしに推薦してもらいたいけど、私は多分、そこまでになれるだけの器じゃないと思う。

それに、そこまでの成績はいらない。

私には私の目標があって、それを叶えるだけの能力は身につけてきてるから。別にいい。




こんな感じで、私は自分のことは自分で決めてきた。

他の同世代の子がどうかなんて知らないし、さして興味もないけど、年齢の割には自立してると思う。

私の数少ない友達の中には、よく私に相談してくれる子もいるけど、私の方から相談したことはないし。

まぁ、いいんだけど、相談されるのは嫌いじゃないし、こんな私でも友達でいてくれることには、素直に感謝してるから。




この頃の私は、自分みたいな考え方の子は、同世代にはいないと思っていた。。

一人でいいし、一人がいいから、別に気にしてなかったけど。

まさか、あんなやつがいるなんて思わなかったわ。。











5月。GWを終えて、一番最初のロングホームルームの議題は「文化祭について」

つまり、文化祭で自分たちはどのような展示をするのか、誰が中心となってそれを進めるのかというもの。今回は、後者を決めるのがメインの議題になる。

クラス委員が前に出て進行しているが、あまり賢い会議の仕方じゃないわね。。

「誰かやりたい人はいますか?」なんて聞いてても絶対出てこないと思う。

そういうのを好んでやりたがるような生徒も、学年トップレベルの生徒だけが集められたこのクラスにはいないだろうし。

私達の学年は、全8クラス。うち普通科が6クラス、商業科が2クラスである。その、普通科6クラスのうち1組と2組だけは成績で決まっている。その、通称「進学クラス」だけは30名ずつなので、2年生の学年末テストの上位60名が、どちらかのクラスにはいることになる。

あぁ、話が逸れた。


で、この状況をどうやって乗り切るのかしら?

「やりたい人がいないなら、推薦はどう?」

そう言ったのは山本さぎり。私の数少ない友達の一人。

クラス委員長も、さぎりの言葉に活路を見出したのか、一瞬でそっちに舵を切った。

「立候補か、推薦です。皆さんどうですか?誰もいないなら、私から推薦してもいい?」

あきれた。どうせさぎりを推薦するのでしょう?

議長が誰よりも先に意見を言ってどうするのよ。

「推薦、いい?」

お?さぎり。誰か心当たりがいるのかしら?

「はい、どうぞ」

これは委員長。

「夏織。あ、東堂さんがいいと思います」

はい?私?さぎり、なにを言ってるの??

「東堂さん、どう?引き受けてくれるかな?」

あのね、委員長さん。推薦を募ってるんでしょ?なんで一人出たからってそうなる訳?

「どうって言われても。。そもそもなんで私を推薦したの?」

まずこれを聞きたいですね。

「あ、そうだね、ごめん。さぎり、どうして東堂さんを?」

。。。

「うん、夏織って、実は結構意見をまとめるのとか上手で、色々なことよく知ってるし、どうかな?って。」

さぎり。。褒めてくれるのは素直に嬉しいけど、文化祭実行委員なんて私には

「いや、向いてないって。私には」

「んー、私もいいと思うけどな、東堂さん」

。。そんな取ってつけたような言葉。

『俺も、東堂さん、いいと思う。』

え?誰よ?って。。柳瀬。。君??

「柳瀬君、よければ推薦の理由も聞かせてください」

と委員長。

『うん、東堂さんは、成績もだけど結構頭の回転が早くて、山本さんの言うようにまとめるのも上手いと思うから、かな。根拠は、隣のクラスの図書委員のやつからの評判です。』

いや、隣のクラスの図書委員って誰よ。。あぁ、樋口か。。あいつ。。

まぁ、樋口からの推薦は嬉しいけど、だからって文化祭実行委員って。。なんなのよ、カップルで二人して。。


そう。樋口はさぎりの彼氏で、私と同じ吹奏楽部の男子。担当は打楽器。そして進学クラス。ちなみにわたしはクラリネット。

樋口は、三役には入ってないけど、同世代とは思えない程大人。に見える時がある。ヒラ部員だけど、みんな結構頼りにしている。

私も、男子の中では、唯一尊敬できるやつだと思っている。まぁ、そんなに沢山男子に友達なんていないけど。。

「東堂、いいんじゃないか?せっかくみんなに推薦されてるんだし、俺も、お前ならできると思うぞ?」

いやいや、先生。私のなにを見てそんなこと言ってるの。

「あと、男子はどうなんだ?柳瀬、お前はどうだ?東堂と二人なら、十分できそうに思えるが」

いや、ちょっと先生。いくら何でもチョイスする二人を間違ってるような。

「どうだ?どうしてもの理由がないなら二人でやってもらえないか?このままだと、他には誰も出てこないぞ」

んな無茶な。。柳瀬君、あんたはどうなのよってなに了承してんのよ。。

あーこれは、やらなきゃだめなやつだ。。



そんな訳で、半ば強引に文化祭実行委員に選出された私達は、さっそく職員室に呼ばれた。

「悪かったな、強引に決めちゃって」

なに?自覚あったわけ?

「実は、うちのクラスは一般入試で受験するやつが多くてな。お前たちは指定校組の中でも優秀だし、ほぼ確実に推薦ももらえるだろうと思ってな。」

いやいや、そうは言っても私たちだって勉強しなくていいわけじゃないんですけど。。

「それに、なんだ、お前たちを見てると、ちょっともったいないなと思ってな」

はい?

『なにがですか?』

私より先に柳瀬君が質問した。

先生は少し考える。言葉を選んでいるみたいだった。

「お前たちは、他の生徒と比べても、すごく能力が高い。でも、あまりそれを見せないから、周りの生徒はほとんどそれを知らないと思うんだ。」

いや、別に知られなくていいんだけど。。

「まぁ特別誇示する必要もないが、実行委員を通して、皆ともう少し深くかかわってほしくてな。それで、お前たちを推したんだ。」

推したっていうかほぼ決めてたでしょ。。まぁいいわ。

もう決まってしまったことだし。あんまり気乗りしないけど、やると決めた以上はちゃんとやるわよ。

「よろしく、頼む」

先生、なんだか真剣ね。いいわ

「わかりました。こちらこそよろしくお願いします。柳瀬君、よろしくね。」

『うん、こちらこそ』

へぇ、意外としっかりした口調で話すのね。。


その後、先生と打ち合わせをして、一学期の間のロングホームルームから3時間を文化祭で使わせてもらえることになった。柳瀬君は、頼りないと思ってたけど、割としっかり先生と打ち合わせをしていた。

なるほど、先生が推すだけのことはあるわね。

過度な期待はしないけど、これならやっていけるかもね。。



さて、夏休み前にはある程度決めておかなきゃね。

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