小噺「プラズマ」

@diiiifferential

第1話

 プラズマというものをご存じでしょうか?


 お、そこの坊ちゃんなんですか? 物質の第四態……、イオン化した物質……。

 馬鹿の一つ覚えみたいに専門用語並べるんじゃないよ。全く、最近の若い者と言ったらこういうところが鼻もちなりません。 

 なぜこんな話を始めたかってね。いや、何を隠そう心霊現象の大半はこれが原因らしいのでございます。


 最近の家電にはプラズマクラスターなんていう除霊装置もあるほどで、


「科学とやらも大したもんだ」

「へえ、なんか騙されてんじゃないですかね」


 なんて隣の旦那と言い合ったのが昨日の話。

 今日になって旦那がこんなことを言い出しました。


「おい、いの字。俺もプラズマクラスターの導入を決めたぞ」


 もう狐にでもつままれたのかと思いましたよ。


「へえ、旦那。しかし、旦那がこの前買った水素水。あれを振りかけても家鳴りは収まらなかったって言ってましたよね?」

「それが今度のは違うらしいんだよ」

「はあ、何がどう違うので?」

「まず、水素水が効かなかったのは家鳴りの原因がプラズマだったからなんだそうだ」

「なるほど。プラズマと言えばエレキテルのようなものですから、旦那の築五十年改築なしの木造建築の平屋に流れたならパチパチといい音を出しそうだ」


「そうだろうそうだろう。今度のプラズマクラスターとやらはね、その電気を無くしてくれるそうなんだよ」

「不思議なこともあったもんですね。なんというかこりゃ、へへっ、お医者のマイヤーさんが病んじまうのも納得の結果というものでさぁ」

「この前ブレーカーが勝手に落ちちまってからウチの冷蔵庫がどうにも調子が悪いからね。あの生ぐせえのもこれでどうにかなってくれるといいんだが」


「ところで旦那。そんなご機嫌の旦那にいい話があるんですよ」

「ほう、なんだ言ってみろ」


「いや、ね。この前、角の大店の若旦那が若い衆にダンプいっぱいの土砂を運ばせてるんだそうでして」

「そんなごろつきじみたことをしようなんて私は気が知れないよ」

「なんでも裏手にある天神様の池が店の改築に邪魔だから埋めちまおうという話らしいんです」

「あそこの盆暗はまた罰当たりなことをたくらむね。どうしてまたそれで私にいいことがあるっていうんだい」


「そのプラズマクラスターがあれば天神様のお怒りも避けられるってなもんでしょう?」

「いやいやいや、心霊現象と神様仏様を一緒にしちゃいけないよ」

「聞いてください旦那。アタシの情報網によりますとね。基督教圏の聖水には塩水が紛れているらしいんでさぁ。塩水となれば、こいつは電解質。つまりはイオン水溶液ですよ。そうとくれば旦那のプラズマクラスターとは除霊の仕組みが一緒ということになりやす」

「だからと言って、天神様だよ? 何か不思議なお力でプラズマクラスターも乗り越えそうじゃないかい?」


「じゃあ、プラズマクラスターにお札も貼っときましょう。天神様のお札を貼ってる信心深さをみりゃあ手加減してくれるってなもんです」

「それもそ……いや、待ちな。そういえばお前さんあそこの天神様に通い詰めてたね」

「おっと、これを機に旦那を氏子にしちまおうっていう腹積もりがばれちまいましたね」

「あたしゃ騙されないよ。そういう嗅覚は鋭いのだけが自慢でね。宗教に嵌るつもりはないのさ」


「お、旦那。あれを見てください」

「なんだい? ありゃあ、噂をすればダンプだね」

「はい、すごい勢いで角の大店のほうに走って行って……突っ込んじまいましたね」

「天神様の祟りかね」

「自動運転なんていう科学しか信奉しない不信心のやからはああなるのがお似合いでさぁ。ところで、旦那」


「どうした、いの字」

「天神様へ今から拝みに行きませんか?」

「気の利くやつだね。今まさに私もそう言おうとしたところだよ」

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