第50話 番外編 蟹ちゃんと戸村くんのクリスマス(戸村目線)
「今日ってクリスマスイヴだよね。なんで俺たち講義あるの?」
蟹ちゃんが大学の食堂でポテトサラダをつつきながら呟いた。
「ね。親戚の小学生も明日から休みだって言ってた。最近は大丈夫なうちは学校できるだけあるって感じだよね。」
俺は自分の分の日替わりメニューのもみの木型のハンバーグを眺めた。学生食堂め、粋なものを作りおって。とちょっとクッキング魂がくすぐられた。
「恋人達はどう過ごすのかね。平原とか平原とか。なんか聞いてる?戸村〜。」
「それ、聞く?落ち込まない?」
食堂にもカップルらしき姿があったりしてクリぼっちなんて言葉の存在が、イヴに男子2人の俺たちを居た堪れなくさせる。ヤケ気味の蟹ちゃんは知り合いのカップルを槍玉にあげる気だ。
「ケーキ食べにいくとか、ピアノのコンサート聴きに行くとか言ってたよ。」
とりあえず幸せそうな2人を教えた。タケちゃんは聞いてもないのに時折、ポロッと幸せ情報を流してくる。無自覚惚気だ。
「ケッ。清潔感溢れる幸せカップル情報か。つまらねー。もっとオトナな情報知りたかったぜ。」
「オトナねー。オトナ。どんな?」
「例えば」
蟹ちゃんはポテトサラダをフォークで掬うと
「はい。平原さん。あーん」
と俺の口に突っ込んできた。そして
「あら、口の端についちゃった。ごめんなさい」
と言って俺の口の端にわざと外してつけたポテトサラダを指で拭ってそれを舐めた。
「ケーキでこんなんやってない?」
もぐもぐとポテトサラダを咀嚼する。美味しい。沢山口にいれたなー。
「やったとして俺たちに報告なんかしないだろうが。大体、最近、健さん、奏音って呼び合ってるらしいぜ」
「なんだと!」
蟹ちゃんはダンと机を叩くと
「じゃあ、こっちじゃん」
とフォークを俺の右手に持たせそれに手を添えて
「パン〜パカパン」
と歌いながら、勝手に俺のもみの木ハンバーグを切り始めた。
「何?」
と聞くと
「ケーキ入刀。2人の初めての共同作業です。的な?」
そして、パクッと俺のもみの木ハンバーグを半分食べてしまった。
「あーそれ、俺のー。」
「ポテトサラダあげただろ」
「対価に合わない」
残りのハンバーグはすぐに自分の口に入れた。このままにしてると全部食べられてしまう。しかしちょっと大きかった。口をいっぱいにしながら、むせそうになりながら、苦しんでいると、
「大丈夫?」
と優しく背中をさすってくれる女子の声と柔らかい手の感触。
「ヨシコ、優しいなぁ」
「あんたら、相変わらず、やる事が子どもよ。」
俺達の女神ってヨシコなんかねぇ。
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