第47話 スピンオフ 科学部の観月会2

 次の日、如月が授業後理科室4に制服のスカートを翻しひるがえしながら駆けつけた時にはもう、戸村の理科室クッキングは始まっていた。白衣に三角巾、マスクと使い捨て手袋、衛生管理は完璧だ。隣には引退したはずの三年生の安田が助手なのか新妻なのか立ち位置微妙にこの日のために用意したと思われるフリフリエプロンで団子を丸めていた。


 丸型水槽に団子粉を捏ねたこねた生地が鎮座し実験用バットに丸めた団子が並び、水を測ったのかメスシリンダーも出ていた。そして1リットルビーカーが3個ほどガスバーナーでお湯を沸かされていた。団子を茹でるゆでる用であろう。


「如月ちゃん!元気?今日は月見団子だよー」


戸村がにっこりと笑った。


 今日だけは立ち入りが許される屋上へ天体望遠鏡を力自慢の男子部員が運び、設置。

机が並び、ススキや団子、輪切りの蒸されたさつま芋が並んだ。このさつま芋は先ほど巨大ブフナーろうとをつかって蒸されていた。


「戸村先輩、ブフナーろうと、絶対使い道、違います!しかも蓋代わりふたがわりが、蒸発皿とか!」

 

と如月が止めれば


「いや〜このぶつぶつの穴を使って芋を蒸せるか一度やって見たくて〜。このブフナーと大きさがあう蒸発皿があって良かったー。吸引ビンでお湯沸かせば良いとは思ってたけど、蓋に困ってたのよぉ。」


と楽しそうな戸村。


「私は食べませんから」


と如月が突き放せば


「佐田がいきます!」


と戸村に手懐けてなづけられた佐田がいた。


 18時から月が登るのを待つ。今年の仲秋の名月は満月だ。一際大きく明るく黄色かった。感嘆の声があがる。


「クレーターみるぞ!」


「土星のわっかー」


「木星ー」


大きい方の天体望遠鏡に群がる部員達。


「戸村先輩、きな粉もいけますね。」


今度はしっとり大人風に迫ることにしたらしい安田が戸村の隣を占拠してシャーレ入りの団子を食す。 


「先輩、このさつま芋、今日の満月みたいです」


もごもごとさつま芋を食べながら佐田が戸村と安田の間に入り込んで、安田に睨まれている。


如月はその様子を眺め、ため息をつきながら、最近部費で入手した小型だが、撮影ができる天体望遠鏡で、学校のホームページに載せる写真を撮っていた。


「でも、なんやかんやいっても、月綺麗だわー」


と独り言を呟くと側で顔を真っ赤にした科学部の会計、間中が


「部費使ったかいありました!如月部長!月綺麗ですね。」


と喜んだ。



科学部の観月会fin


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