第3話 熱が上がる

 戸村の案とはこのままほっといて蔵森さん側から動いてくるのを待つであった。一応、〆切ってやつがあるのだと弱気な俺に戸村は


「最悪、俺が手伝ってやるから」


といってくれた。持つべきものは友だ。そんなこんなで3日後俺が風邪で休んだ日に動きがあった。


『蔵森さんから話しかけられた!』


と戸村からSNSがきたのだ。そして戸村と蔵森さんが連絡を取り合った結果、俺の了解を得られれば良いとのことで、


『蔵森です。よろしくお願いします』


やっと来た。文集の仕事ができる。ほっと安堵して俺はまた熱が上がったのであった。


 

 結論から言えば、とっても仕事のしやすい相手であった。学校では相変わらず接触は無くこのSNSの相手は本当に彼女なのかと思ったぐらいだ。俺が提示した仕事の分担通り、パソコンでの打ち込みは俺が担当し、タイトルや冒頭のクラス紹介文などを彼女が考えて、サクサクとSNSで送ってきてくれた。俺が提案すると、即座に消化して訂正してくるし、委員会の仕事がこんなにスムーズに進むものとは初めての感覚だった。


 その頃、学校では少しイベントが続いた。会社見学や講師を招いての講演会など。将来を見据えての文理選択のためだ。自分の興味があるものを受けるのだが、彼女と一緒のコースになる事が多かった。同じ方面を志望しているみたいだった。考えが近いから仕事がやりやすいのかと勝手に納得してしまった。


 彼女が話しかけてきたのは卒業生の講演会を受けた後だった。別教室の講演を受けている戸村が来るのを待っていたら帰り支度を終えた彼女がかなり近くに寄ってきた。最近ポニーテールをやめてサラサラストレートの髪形になった彼女の髪の毛がサラッと動いて俺に触れるそんな距離だった。


「平原さん、あのね先生のキャッチコピーだけど」


「アンケートの中から決めるしかないよね。俺も目は通したけど、」


平常心を心がける。なんでこんなに近いんだと内心うろたえてしまった。目を上げるとメガネの奥の黒目がちで長い睫毛の目と目があってしまった。するとにこっと笑った彼女は


「今日、集計して表にしてみるね。また、SNSで送るからよろしくね。」


と言って顔をあげると急に一瞬厳しい顔をした。つられて彼女の目線の方を見ようとすると、


「じゃ、今晩にでも。ちゃんと一緒に考えてね。部活頑張って。」


と言って何故か敬礼して去っていった。

彼女を見送ると戸村が迎えにきてくれたのが見えたので、慌ててリュックを背負い席を立った。周囲を思わず見渡すと、残っているのは他クラスの男子ばかりで、俺へ向ける視線が妙に冷たかった。


「平原〜」


 戸村の声にほっとしながらその教室を後にした。女子と話していたからリア充爆破的な視線だったのかなと思いながら、一瞬彼女も厳しい顔をしていたからあの視線を彼女も浴びたのだろうかと思いを巡らせた。だけど、近づいて話しかけてきたの彼女の方なんだよなぁと自分は悪くないとかいろいろ考えてたら、科学部部室である理科室2を通り過ぎていて

「おーい平原ーおーい」


という戸村の声がなければ非常口からでちゃってたかもしれなかった。

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