脱学校的人間(新編集版)〈21〉

 かつて「小さい大人=子ども」は、大人がしていることをそのまま教えられた。見方を変えれば、それはつまり「大人がしていることを、大人と同様にさせられていた」わけだが、しかしそのように教えられたからといって、彼らがそれを実際すぐにでも、そっくりそのままできるようになるかどうかはまた別の話である。

 どのような子どもであれ、はじめから何でも教えられた通りに「何もかも大人そのままにできた」というわけではあるまい。そして、それができないうちは彼らはたしかに「子ども扱いされていた」のではあっただろう。少なくとも「大人と同等」とは見なされなかったであろう。「大人がしていることそのままをまだできないでいる間」は、彼らはやはり「まだまだそれなりに子ども」なのである。それはまさしく「大人と同様では未だない」という意味で「未だ子ども」なのだ。

 つまりここで子どもというものは、それなりに発見されているということになる。しかも割合「決定的に発見されている」のである。


 たとえ大人がしていることをそのままに教えられても、小さい大人=子どもがその教えられたことを「すぐにもできるようになる」というわけではもちろんない。

 ただ、彼らが「できない」のは「彼らが子どもだからだ」というようには、彼らを教える大人たちの方では考えなかった。むしろそれは「修行が足りないからだ」などといったように、「一人前の大人としてはまだ不足である」ものと彼らの師匠や親方たちは考えるのだった。その意味で彼らは「まだ小さい」ということなのだ。彼らがその師匠や親方と同じように事を為すには「まだ足りていない」からこそ、彼らはその師匠や親方といった「大人たちに教わっている」のである。

 彼らに対する「子ども扱い」は、彼らが「子どもだからという前提」でなされていたわけではない。「大人たち」からすればとにかく今こうして自分たちが実際にしていることを、彼ら=子どもがやがては結果的にできるようになるのであればそれでよいだけなのであって、そして「ただそれがまだできていないから、彼らを子ども扱いしている」のにすぎない。だから彼ら=子どもが「子どもであること」を、「大人たち」の方では何ら求めてもいないし、もっと言えば彼らがまだ子どもであるということは、むしろ大人たちにとって不都合なことですらあるのだ。何しろ彼らに「いつまでも子どものまま」でいられたら、こっちの仕事がちっとも捗りはしないのだから。


 ところで、ここで教えられていることが「大人が現にしているそのままのこと」である以上、そこでは「何」が教えられたかよりも、むしろ「誰」が教えたかということの方が重要となる。

 「教えられた子どもがしていること」は、「教えた大人のしていたこと」をそのまま反映している。だから教えられた後において、その教えられた当の子ども自身が、人から「お前には一体何ができるのか?」と確認されるとき、彼が一体「誰の子(または弟子)であるのか?」が、そこでは確認されているのである。なぜなら彼らが「できること」の質的練達は、まさに彼らの師匠や親方が「してきたこと」の質的練達そのままなのだから。

 見方を変えると、彼らは別に「誰もができるようになるべきことを教えられていたわけではない」のであり、またそんな必要もなかったということだ。「ある子ども」が教えられたことを、「別の子ども」が同様にできるようになる必要は全くなかった。やはりここでも彼らが「教えられることの条件」として、「子どもであること、すなわち子ども一般であること」という基準は、そもそもその前提として全くなかったのだと言える。「彼の親方や師匠と同じことが、彼自身も同じようにできる」ようになるか否か。それだけが、彼らが「教わる条件」だったのである。

 ゆえにこの「教育段階」においての、子どもらに対する「子ども扱い」とは、あくまでも「現に教えられている、目の前のこの子に対してのみ」なされていたものであり、かつあくまでもそのようなレベルに未だとどまるものだった。この段階において、「他の子」あるいは「子どもたち一般」などといった者らについては、それぞれの親方や師匠にとって全くどうでもよいことだったのであり、とにかくただ「この子=この人だけを対象とする」のが、この段階においての「教育」だったわけである。


〈つづく〉

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