第28話・どうしてきみはあのキャピュレット家の狂犬と婚約することになった? 


 照れ隠しに言えば、「アハッ、そうかも」と、声が返ってきた。何気に失礼だ。ムッとすると、「それにしても全然、気がついてくれないんだもんなぁ」と、拗ねたように言われた。


「そりゃあ、分からないわ。会った時は金髪で、しかも顔の半分が前髪で隠されていたじゃない。眼光鋭い少年だとは思っていたけど、正直、顔の形とか注目してなかったし」

「あれは染めていたんだ。僕、それでも期待していたんだよね。ロザリーがいつかあの時の少年だって、気がついてくれるんじゃないかって」


「気がつかなくてごめんなさい。でも、随分あの頃から好青年へと変わったわよね」

「うん。頑張ったから。きみと再会した時に笑われないようにって」


「どうして荒れていたの? 今のあなたの姿からはとても想像出来ないけど」

「あの頃、僕は家の者達が、弟ばかり構って目をかけているように思われて面白くなかったんだ。初め僕に付けられていた侍女らは、僕のことをモンタギュー家の血を引かない居候と言って、馬鹿にしていたしね」

「失礼な人達ね。今もその人達はお屋敷にいるの?」

「いや、事情を知った父が辞めさせたよ」


「それにしても仕える主が幼いからって、言って良いことと悪いことがあるわ。何の根拠もない話でしょう?」

「でも、本当のことさ。母は嫁ぐ前に僕を身籠もっていて、父はそれを承知の上で婚姻した。妊娠三ヶ月だったらしい。母には将来を誓い合った恋人がいたんだけど、その恋人が病で命を落とし、親友だった父に母を託したらしくてね」

「そうだったの」


「同情はしなくてもいいよ。僕はあの頃は侍女の話を鵜呑みにして、自分はモンタギュー家にはいらない子なのだと思っていた。だから弟の名前を名乗って、悪さをする事で両親や弟を困らせてやれば良いと思っていた。馬鹿だった」

「あなただけ責められないような気もするけど。でも今はちゃんと更生したんでしょう?」

「うん。きみにお仕置きされてから両親や、弟には今までのことを謝罪して勘当して欲しいって言った。そしたら父が里子に出るか? って聞いてきて、ハンスの家に送られたんだ」


「ハンスとあなたはどのような関係?」

「彼の母親が乳母だった。父も知らない家に僕を託すよりも、乳兄弟と共に育った方がいいだろうと預けたみたいだ。実家にいるよりも気楽で伸び伸び暮らせたよ」

「青い鳥騎士団に入団したのは、ハンスの勧めだったの?」

「いや、弟に勧められたんだ」

「……!」


「ハンスの実家に里子に出されたとは言っても、両親やロミオは毎月一回、会いに来てくれていた。成人したらハンスの家からは出るつもりだったから、今後どうしようかと思っていたら、ロミオが青い鳥騎士団で入団テストを行うみたいだと教えてくれて、テストを受けたら一発OKだった」

「凄いじゃない。ベル。あのティボルトも受けたみたいだけど落ちたらしいわ。入団テストって結構、厳しいって聞くわよ」

「オヤジさんに目を付けられたせいかな?」

「お父さまに?」


 ベルサザは父のことを職場では「総団長」と役柄で呼び、家では「オヤジさん」と、呼んでいた。


「モンタギュー家の悪童が何しに来た? って、凄まれた。剣聖って凄いよな。一睨みされただけで総毛立ったよ」


 当時のことを思い出したのか、ベルサザが腕をさする。父は入団テストを受けに来たベルサザを一目で、モンタギュー家の悪童と見抜いたらしかった。わたしは全然、気がつかなかったのに。常人と剣聖の違い??

 ベルサザは、父も気がついたし、その娘であるわたしもいつか気がつくと思っていたのかも。それについてはごめんなさいとしか言えなかった。


「なあ、ロザリー」

「なに? ベル」

「どうしてきみはあのキャピュレット家の狂犬と婚約することになった? 団長が望んだわけではないだろう?」


 ベルザサはわたし達と暮らしているから、何となく感じるものがあったのだろう。父がわたしとティボルトとの婚約を良く思ってなかったことを。別に隠しておくことでもない。ベルサザには言っても構わないような気がした。


「彼との婚約は、キャピュレット家当主の思惑と、ティボルトのわたしへの償いと、わたしの希望が折り重なった結果、結ばれたものなの。お父さまは最初から反対していたわ」

「ロザリーの希望? きみはその頃ティボルトのことを?」

「恋していたとは言わないけど、嫌いではなかったわ。初めのうちは彼も、わたしに怪我を負わせた罪悪感があるから優しくしてくれていたのよ。そのことでわたしは都合の良いように考えて、彼が自分に好意を持ってくれていると勘違いしちゃった」

「それはいつの頃の話?」


 ベルザサがもっと詳しい話を聞かせて。と、言ってきたのでわたしは婚約が結ばれた日のことを話すことにした。

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