第27話・あなたが悪童ロミオだったのね?
「私はキャピュレット家に嫁ぐ前に、ティボルトを生んでいたの。キャピュレット家の先代当主さまは、何としてでも主人をキャピュレット家当主の座に就かせる為、私の家の後ろ盾を望んだ。そこでティボルトは養子にやり、キャピュレット家に嫁いだのよ。このことは先代ご当主さまと実家でも一部の者しか知らない秘密だった」
「ゾフィー……」
両手で顔を覆い、俯く叔母の肩を叔父が抱き寄せる。叔母にとっては、誰にも知られたくない秘密だったに違いない。墓場まで持って行こうとしたに違いない。それが思わぬ我が子達の恋愛によって、暴かれてしまうことになるなんて思いもしなかっただろう。
叔母の言葉に皆が驚く中、わたしは一人納得していた。叔母はジュリエットを可愛がってはいたけど、常にティボルトを何かと理由をつけて側に置きたがった。その理由は手放していた息子との時間を、取り戻そうとしていたのではないかと思った。
叔父は叔母に頭が上がらないように感じていたけど、自分が当主に就く為に、叔母には無理をさせてしまったことを、薄々察していたのかも知れない。その為、叔母が望むことを叶えてあげようと思っていたのかも知れない。キャピュレット家の男性達は、女性に甘い一面があるらしいから。
叔父は事情を知らなくても、叔母が望むままにティボルトを、ジュリエットの護衛にした。わたしと婚約させたのも、もしかしたら叔母の要望があったのかもしれない。ティボルトを目の届く範囲内で婚約させたかったと思われる。不器用な人達だ。
ジュリエットは真相を知ると、ショックのあまり気を失い、ティボルトは深く落胆していた。このことはこの場でロミオや叔父によって箝口令を敷かれ、皆、沈黙した。
その晩のこと。
夕食が終わると、いつものように洗い場に「手伝うよ」と、ベルサザが顔を出した。
「いつもありがとう」
「居候の身だからね、手伝うのは当然だよ」
「今日は色々あってビックリしたわ。ジュリエットとティボルトのこと、いつから知っていたの?」
「僕が知ったのは最近だよ。ヴァローナ前日祭でロミオに会って聞いたんだ」
「ロミオとあなたは兄弟なの?」
「うん。今まで黙っていてごめん」
食器を洗うわたしの隣で、洗い終わった食器を布巾で拭きながら彼は答えた。わたしは洗い物の手を止めて聞いた。
「あなたは地方の貧乏貴族の三男坊なんかじゃなかったのね? 7年前、わたしが出会った悪童ロミオだったのね?」
「そうだよ。僕があの時、荒れていたロミオだよ。あの頃は弟の名前を騙ってやりたい放題やっていた」
「うちにやって来たのは、あの時の報復ってことはないわよね?」
今まで暮らしてきたベルサザの態度から、それはないと思いたい。でも彼がロミオの兄で、あの時の悪童だったと知っては、どうして我が家に来たのか気になっていた。
「僕は報復なんて考えても無いよ。あの時の女の子にただ、会いたかっただけ」
「えっ?」
「あの時のきみに一目惚れしたんだ。洗濯棒を持って振り回す勇敢なきみの姿に強く惹かれた」
「何それ。目がおかしいんじゃない?」
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