第20話・うちに来ない?


 数日後。街に買い物に出ていたら「こんにちは」と、金髪の若者から声をかけられた。


「きみがロザライン? 美人だね」

「あなたはロミオよね?」

「ぼくの事、知っているの?」

「コンテストで、花騎士に選ばれていたじゃない。あなたのことは、参加者の皆が知っていると思うわ」


 わたしに声をかけてきたのは金髪に碧眼の麗しい若者ロミオだ。彼は屈託のない笑みを向けてきた。周囲の女性達は「モンタギュー家のロミオさまよ」と、目ざとく見つけて囁きあっている。そして話しかけられている女性は何者だと、詮索するような視線が多かった。


「何か御用?」

「ちょっとね、きみにジュリエット嬢のことで話があるんだ。そこでお茶でもどう?」

「ジュリエットのことで? 何か問題でも?」


 なぜ自分に彼が声をかけてきたのか分からないが、わたしは彼と10歳の頃に出会っている。その時のことを聞かれるかと思ったのに、それにロミオは触れなかった。彼は忘れているようだ。そればかりか、もう関わりたくないジュリエットの名前が出て来て怪訝に思った。


「きみは彼女とは従姉妹だと聞いたよ。違ったかな?」

「分かったわ。手短に頼むわ」

「了解。じゃあ、そこの茶店で」


 ロミオは、わたしがジュリエットの従姉妹だと知っていた。キャピュレット家から、モンタギュー家へ婚約の打診があったということだから、モンタギュー家で色々とジュリエットの素行調査を行っているのかも知れない。その上で、わたしから話を聞きたいということは、きっとティボルトとの事が知られたのだと思う。下手に断れなさそうなものを感じて彼に付き合うことにした。

 彼はスマートにわたしをエスコートして、お店の奥の窓側の席に案内した。


「何でも好きな物を頼んで。ここは紅茶が美味しいお店だけど、ケーキもお勧めだよ」

「ではお言葉に甘えて。フルーツタルトを頂こうかしら」

「タルトが好きなの?」

「フルーツが好きよ」

「そうなんだ」


 ロミオが店員さんに紅茶を頼むと、紅茶と一緒にタルトが運ばれてきた。


「まあ、素敵。頂きます」


  タルトに乗っているフルーツが、彩りよく並べられていた。それに気を良くしながら頬張ると、予想を裏切らない美味しさで頬が緩みそうになった。


「きみは美味しそうに食べるね」

「美味しいもの。それよりお話って?」

「我が家に持ち込まれた、キャピュレット家との縁談のことでね。ジュリエット嬢は、ティボルト卿とお付き合いしているようだね?」

「ええ、まあ。でも、もう別れたと聞きます」


 叔父に知られて二人は今、離されている。その事情をわたしは詳しく知っているけれど、キャピュレット家の恥部にあたるし、それを叔母が婚約を打診している家の者に明かすのは得策ではないような気がした。


「きみはそれでいいの?」

「へぇ?」

「ティボルト卿はきみの許婚なのだろう? ジュリエット嬢と懇意の仲だったと聞くけど?」

「彼との婚約は、キャピュレット家当主が決めたものでしたから」

「では全ての責任は、キャピュレット家当主が背負うのかな?」

「どういうことですか?」

「知らないの? キャピュレット家夫人は、娘可愛さに神をも恐れない所業をしでかそうとしたのだよ」

「……?」

「まあ、いずれ分かると思うけど。そこでぼくから提案なのだけど、きみ、モンタギュー家に来ない? 嫁として」

「はいぃっ?」


 ロミオが軽い調子で言ってくる。思いもしなかったことを言われて驚いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る