第13話・あれで名門伯爵家のご令嬢とは嘆かわしい


「何なの? あれ。見ていて腹が立ったわ。ロザリーのこと、何だと思っているのかしら?」

「しかも初対面の異性に対し、馴れ馴れしいですよね。あれで名門伯爵家のご令嬢とは嘆かわしい。コンテストの時は猫を被っていたようですね」


 レノアが怒ったように言えば、滅多に人の悪口なんて言わないハンスさえ呆れたように言っていた。猫を被るとは言い得て妙だと思う。わたしは叔母から「泥棒猫の娘」と当てつけられてきたのに、ジュリエットの方は「猫を被る」だなんて面白い。


「でも、ベルの返しは最高だったわよね。笑いそうになっちゃった。真顔で切り返すから」

「ロザリーが馬鹿にされて頭にきたからな」

「ありがとう。ベルに助けられたようなものね。わたし一人だったら何も言い返せなかったかも」

「心残りはないか?」

「ないない。思っていたこと言ってやれてスッキリした。いつかは言ってやりたいと思っていたけど、そう思う日に限ってなぜか会えなかったしね」


 ティボルトとはキャピュレット家当主が決めた婚約とはいえ、それなりに仲良くやっていこうと思っていた。でもあれはない。人の許婚にちょっかいを出しておきながら返す? 

 ジュリエットの「ティボルトを返すから」発言には反発を覚えた。人は物じゃない。人の心はそう簡単に切り替えられるものでも無いのに、彼女はティボルトをあっさりと手放そうとした。彼女にとって彼は、簡単に取り替えのきくアクセサリーのようなもの? 理解不能だ。

 いつからあんな子になってしまったのだろう? 残念でならない。


「それにしてもあのティボルトは何なの? ずっと棒立ちしちゃってさ、許婚が批難されているのに庇いもしないで」

「仕方ないわ。彼はジュリエットの護衛だから、彼女の機嫌を損ねたら立場がないしね」

「それでも何とか許婚の為に出来ることぐらいあるでしょう? あれではまるで正妻と愛人の間に挟まれたどっちつかずの夫みたい」

「レノアったら何なの、その例え」

「私が読んだ大人向けの恋愛小説の中に、そう言った描写があったのよ」


 レノアは面白いことを言う。吹き出すと、「本当に本に書かれてあったんだからね」と、念を押された。そんなレノアが可愛く思えるらしく、ハンスは彼女の横顔を微笑んで見つめていた。


「あ~あ。暑くなってきたわ。あー、喉渇いちゃったなぁ。レノア、これから茶店でも行かない?」

「いいね、皆で行こう」


 従妹の運命の恋のお助けにはならなかったけれど、友人の恋は上手く言って欲しいと願って、わたしはレノアの手を引いた。後ろではベルサザとハンスが肩を並べて何か話している。その何気ない日常が、今のわたしにはとても有り難く感じられた。 

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