第8話・アイドルみたいです
そして当日。
新緑が香る街の広場に設けられた壇上前に、大勢の人が集まっていた。これから明日から始まるヴァローナ祭の花娘と、花騎士の発表が行われる。
花騎士や花娘の選出方法は人気投票。候補者は手かごを持ち、評価者から花をもらい、籠に貯まった花の量で勝敗を決めていた。評価者は広場に集まってきた人々。皆は主催者側から一輪の花を渡されているので、自分が一番、気に入った候補者に手渡すことになっていた。
審査の結果、今年の花騎士に決まったのは、19歳のモンタギュー伯爵家の子息ロミオ。金髪に青い目をした甘いマスクの若者。そして花娘には、14歳のキャピュレット伯爵家の令嬢ジュリエットが選ばれた。大公さまとのお約束通りの展開になって、わたしは満足していた。
二人が司会から名前を呼ばれて壇上にあがった途端、会場にいる若い女性達から黄色い声が上がる。
「ロミオさまぁ──!」
「こっちみてっ」
「きゃあっ。目があったぁ!」
ロミオはサービス精神が旺盛らしい。異性受けする自分の容姿に、よほど自信があるのだろう。女性達の声に応えるように投げキッスをしていた。随分、調子が良いというか、軽い男に育ったようだ。10年前の悪童が嘘のようだ。
一方、花娘に選ばれたジュリエットは、ブルネットの髪に空色の瞳を持つ美少女。はにかむような笑みが若い男性達の心を揺さぶるようで、彼女の笑みに、胸を鷲づかみにされたような男性達は「ジュリちゃん」コールを起こしていた。
──凄いな、これ。二人ともアイドルみたい。
わたしは会場の熱気の凄さにあてられて、目の前がクラクラしてきた。実はわたしも、花娘の候補者として親友のレノアと、ちゃっかり参加していたりする。わたしの場合は、頭あわせに参加しただけだけど、レノアの方は残念でならないようだ。
「あ~あ。だめかぁ。最後の年だったのに……」
「そうね。花娘の参加者資格は、14歳から17歳までだから、わたし達は花娘候補者応募の最後の年になるわね」
「狡いわよねぇ。花騎士の候補者は19歳まで参加可能だってのに」
まるで17歳過ぎたら、オバサンだと言われているみたいじゃない? と、レノアはふて腐れる。
わたしとレノアは、17歳だから今年が花娘の候補者として参加するのは、最後の年となるのだ。彼女が面白くなく思う気持ちは分からないでもない。
「これってさ、最初からあの二人に決まっていたんじゃないの?」
「滅多なことを言わない方が良いわ。ここでは誰が聞いているか分からないし……」
「何も言わなくとも皆が心の中では、思っていると思うわ。だってあのモンタギュー伯爵家と、キャピュレット伯爵家だよ。仲が悪い家同士のご子息と、ご令嬢が選ばれるってあまりにも出来すぎじゃない? きっと大公さま辺りが企んだんじゃないの?」
その言葉にぎょっとした。彼女は今回の件を知らない。影で彼らが選ばれるように、大公の息のかかった者達が暗躍していたとは知らない。亜麻色の髪に緑色の瞳を持つレノアは、普段、おっとりしていて朗らかなくせに勘がいい。そのような事を言い出すなんて思わなかったから驚いた。
「集まった花だって、わたし達の方が多かったのに……」
「あ、ほらほら、これから壇上で二人の紹介が始まるわよ」
そんなこと言ってないでさ。と、話を逸らしながら壇上に目を向ければ、今年の花騎士と花娘に選ばれたふたりが挨拶する所だった。
ジュリエットは、蚊の鳴くような声で挨拶していた。そんな彼女は可憐で愛らしく、彼女に投票した男性達は、「ジュリちゃああああんっ」と、声援を送っていた。それに小さく手を振り返すジュリエット、そりゃあ、可愛いよね。
「やはりヒロインは違うわね」
「ヒロイン? なにそれ」
「あ、別に。何でもないわ」
うっかり漏らしたわたしの声に、レノアが反応する。聞き慣れない言葉に首を傾げる友人を見て、やってしまった! と、苦笑しかでない。
友人であるレノアにも、わたしが前世の記憶持ちである事は明かしていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます