第5話 心なき者

バンッ!とふすまが開く音がして3人の男の人が入って来たんだ。

バシャバシャと写真を取られた。


「うわぁ!なんだ手前ぇらぁ!」


修ちゃんが怒鳴った。

その時、ボクは修ちゃんに抱かれていた。

まだボクの中に修ちゃんが入ったままだった。


「先生!バッチリ押さえましたよ!」

「うむ、高橋修二さんですね。

私は弁護士の中倉と言います。

ちょっと話があるので服を着て貰えますかね。」


「ひ、人の家に勝手に入りやがって!

只じゃ済まさねぇぞ!」


「只じゃ済まないのは貴方の方ですよ。

警察を呼びましょうか?

それでも構いませんよ!」


「うぅ・・・」


(どう言う事?)

『児童福祉法違反ですね』

(何?それ)

『未成年との性行為は犯罪なのですよ。』

(修ちゃんタイホされるの?)


『通常はそうなりますね。

貴方の場合は13歳以下ですから強姦として扱われますね。

実刑となるでしょう。』


(よく分からないけどヤバイって事?)

『そう言う事です。』


月曜日は修ちゃんの仕事が休みなので、

学校から帰ると修ちゃんが待っている。

奥の部屋にはもう布団が敷いてあって、

修ちゃんが裸で横になっている。


ボクもすぐに服を脱いで布団の中に入るんだ。

たくさん愛して貰うんだ。

いっぱい愛して呉れるんだよ。


それから一緒にお風呂屋さんに行って。

帰りにはおでん屋さんで晩御飯を食べる。

月曜日のお楽しみだったんだ。


(きょうはおでんが食べられないなぁ)

『そうですね。』


去年、お母さんが死んだ。

自殺したんだって修ちゃんから聞いた。

お母さんって誰?って聞いたら、

ボクを産んだ人だって教えて呉れた。


へぇ~、そんな人いたんだ~って思った。


お葬式にはお父さんも来ていた。

最初はみんな怒ってたけれど、途中からニコニコ笑ってた。


何で?って修ちゃんに聞いたら、

コーデン袋が分厚いからだと教えて呉れた。


『お金が沢山入っているのですよ。』

と”彼女”も教えて呉れた。


なのにその夜、修ちゃんとお父さんが大げんかをした。

鼻血を出してお父さんが負けた。


修ちゃんは強いなぁ~

カッコ良い!


でも今の修ちゃんは泣いている。


「頼むよ、連れて行かないで呉れよ。

もうしねぇから、ちゃんと育てるから。

こいつが居ねぇと俺ぁ・・・」


「駄目ですよ。聞けませんね、そんな事。

証拠もあるし、出るとこへ出ましょうか?」


どうやら、お父さんがボクを引き取ると言い出したらしいんだ。

奥さんと子供が居たそうなのだけれど事故で死んじゃったんだって。


それでボクを跡継ぎにするつもりらしい。


ボクは何度か手術をして、傷跡もほとんど分からない様になった。

修ちゃんがお給料を貯めて手術代を出して呉れたんだ。


お葬式の時にボクを見たお父さんが急に引き取ると言い出したらしい。

それでケンカになったそうなんだ。


負けたからベンゴシを雇ったんだなきっと。


(そんなに強いの?ベンゴシ)

『えぇ、強いですよ、とても。』

(修ちゃんでも勝てないの?)

『勝てませんね、ボロ負けしますよ。』


(そうか・・・勝てないのか・・・)


ボクは泣いている修ちゃんの横に座りささやいたんだ。


「修ちゃん、ボクお父さんの所へ行くよ。」

「あ、明、お前・・・」

「ありがとう修ちゃん、大好きだよ。」

「あき・・・ら・・・」


「諦めは付きましたか?もう宜しいですね。」

「あぁ・・・分かったよ・・・」


ボクの荷物は後で誰かが取りに来るらしい。

このままボクは車に乗ってお父さんの所へ行くそうだ。


「ちょっと待て!」

「何ですか?まだ何か?」

「いや、渡すものがあるだけだ。」


そう言って修ちゃんがタンスの中から何かを出して来た。


あぁ、知ってるよ。

ツーチョーって言うやつだ。

ギンコーでお金を出す時に持って行くやつ。


「持ってけ、お前の名前で作った通帳だ。

これがハンコだ、失くすんじゃねぇぞ。」


「うん。」

「元気でな。」

「うん。」

「明・・・」


「何?」


「もう行け。」

「うん。」


それからしばらくして、修ちゃんが死んだ。

ビルの上から飛び降りたそうだ。


(なんでそんな事したのかな?)

『死にたかったからでしょうね。』

(なんで死にたかったのかな?)

『生きるのが辛かったからでしょうね。』


(どうして?)

『見つからなかったからですよ。』

(何が?)

『生きる理由が。』


そうか・・・

でもやっぱり分からないな・・・


生きるのに理由なんかいるの?

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