第21話〜バツマルの初出勤〜

———ゴンゾーが妹の結婚式に出席するため、龍人の里へ帰省した。龍人の里は、タルタロスから車でも往復2週間掛かる辺境の地。その間、第1迷宮のボスの代わりを探すついでに、新入社員ならぬ新入魔人を雇ったドリームラビリンス。


 新入社員のバツマルは、とても礼儀正しい蝙蝠人バットマンで、出勤初日で皆の雰囲気に溶け込んでいた。



 「私こそ、こんな良い職場で働けて感激です。」


 「バツマルさんが良い人だからですよ!真面目にやってくれるし、程よく勇者にクリアさせてますし、素晴らしい!」


 「ああ!バツマル君、素晴らしい!」


 オブライエンとノーマンは、日頃のゴンゾーを見ていたので、バツマルの誠実さを無意識に手を叩き、祝福していた。


 当初、問題視されていたクモ子との相性であったが、蝙蝠人バットマンにも種族が複数あるらしく、バツマルは、果物蝙蝠人フルーツバットマンという種族で“草食系”らしい。


 それを聞いて、クモ子は偏見を謝罪していた。


 「では、ボスの業務に戻らさせていただきます!」


 礼儀正しく、従業員部屋を出るバツマル。


 (きっとゴンゾーだったら、休憩終わってから煙草吸いに行くだろう。)


 (ゴンゾーさんなら動画撮影するか、ずっとグダグダしているだろう。)


 オブライエンもノーマンもバツマルに感激しっ放しであった。


 

 (う...緊張するな...早く慣れないと...胃が痛い)


 バツマルは、両腕から伸びる羽をバタッと羽ばたかせて、ボス部屋の天井を足で掴んでぶら下がる。


 (オブライエンさんもノーマンさんもみんな良い人だし、なんたっての迷宮なんだ。みんなの期待に応えないと!!)



 バツマルは、迷宮のボスに憧れ、地元の洞窟を旅立ち、ここ“タルタロス”へと数年前にやってきた。


 そこからボス稼業を始めたのだが。


 蝙蝠人バットマンは、洞窟、廃城型の迷宮に映えるため、迷宮会社からは、とても人気のある種族の一つであった。能力も高く、バツマルも色々な有名迷宮で働いた。


 しかし、採用されても、プレッシャーから、中々、本領を発揮できず解雇を繰り返していた。今回、成り立て勇者用の迷宮という事で応募したは良いものの、オブライエンとノーマンがとても良い人であったため、そんな2人の期待を裏切れない。そう思って、一層自分にプレッシャーをかけてしまっていた。


 「バツマルさん、いいですか!緊張しなくて大丈夫ですよ!成り立て勇者しか来ませんので、本気で戦わなくて大丈夫です。適度に手加減するぐらいで大丈夫ですので!」


 オブライエンに最初にそう言われた事を思い返す。


 (よし!手加減、手加減!本気を出さずに丁度よく....)


 勇者が扉を開けて入ってくる。


 『ガチャッ』


 「あ、あれがこの迷宮のボスか!ゴンゾーさんじゃないのかよー。」


 「えー、サインもらおうと思ったのにー。」


 (や、やっぱり僕じゃダメなのか〜)


 バツマルは、涙が自然と溢れ、天井から床へと落下した。


 (くそ!くそ!僕じゃまだ力不足なんだ!!)


 床に落ちた後も悔しさと自分の力不足...を嘆くバツマルを見て、勇者は好機と思ったのか、一斉に攻撃を仕掛ける。


「ファイアボール!」


「どりゃーーーー!」


「うりゃーーーー!」


 (も、もうダメだ....なんて不甲斐ないんだ!オブライエンさんとノーマンさんにも恩返ししなきゃなのに...)


 勇者たちからのダメージは、全く受けていないのだが、精神的なダメージが大きいようでバツマルは倒れた。


 「よっしゃーーー!」


 「やったね!意外と楽だったんじゃない?」


 「クリア報酬ゲットーー!ちょうど金欠だったし、アイテムちょうどいいぜぇ!」


 勇者たちは、嬉しそうに迷宮を出ていった。


 ちょうどその頃、次の迷宮構想を話し合っていたオブライエンとノーマンは、監視モニターでバツマルを倒し、喜び飛び跳ねる勇者たちを見る。


 「やっぱり、バツマルさんは、素晴らしいな。」


 「ですね!!こんなに勇者たちが喜んでいるなんて!やっぱり、上位の迷宮を色々経験してるだけあって、演技や手加減も上手なんですね!!」


 肩を落としながら従業員部屋に戻ってきたバツマルを見て、オブライエンとノーマンが駆け寄る。


 「バツマルさん、すごいですね!!やっぱり、上級の迷宮経験者は違います!!」


 「へ...?」


 「うちに来てくれてありがとうございます。どっかの龍人ドラゴノイドにも、今度指南してやってください。」


 「......」


 「僕、あんなに勇者たちが喜んでくれてるの初めて見ましたよ!演技も上手かったですし!」


 「ああ。ゴンゾーの演技は、あからさまだからな。このまま、バツマルさんに第1迷宮は任せたいな。」


 「.......いやいや、それほどではないですよ!まあ、あれぐらいで良ければいつでも!」


 バツマルは照れ臭そうに頭を掻きながら机に座り、オブライエンが出してくれたコーヒーを飲む。


 (期待に応えられてるみたいだ!よかった!でも、次も期待に応えないと........い、胃が痛い....)



 こうして、バツマルの“ドリームラビリンス”でのボス生活がスタートしたのだった。


 



 

 

 









 








 

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