第18話〜クモ子の実力〜

———— 第10階層、“ドリームラビリンス”が運営する2つ目の迷宮のオープン日。

オープンまであと30分。


 朝、オブライエン、ノーマン、そしてゴンゾー、クモ子、コルドーの5人は、従業員部屋でオープンの瞬間をドキドキしながら待っていた。


 監視モニターで入口を見ると、すでに10組ほどの勇者パーティーが並んでいる。


 「おい!もう結構並んでるぞぉ!!」


 ゴンゾーが声を上げて監視モニターを指している。


 ちなみにゴンゾーは、第一階層はお休みにし、こちらにサポートに来ている。と言っても半ば強引ではあったが...


 「き、緊張してきた...」

 

 オブライエンは、深呼吸して気持ちを落ち着かせている。クモ子とコルドー、ノーマンは、座りながらコーヒーを飲み、オープンへと気持ちを落ち着かせていた。


 「さあ、みんなオープンの時間だ。大変かもしれないが、宜しく頼む。」


 ノーマンは、頭を下げる。そして、ついに第10階層、2つ目の迷宮が開店した。


 

 「おい!オブ!“デーモンビートルに今のうちにゼリーあげろ!疲れてきてるぞ!」


 「は、はい!ノーマンさん!並んでる勇者たちがトラブってるみたいです!!仲介お願いします!」


 「あ、ああ。コルドーさん。罠宜しくお願いします。」


 「はいよ!こっちは心配しなくていいから、早く仲介に行ってきな!」


 ”ドリームラビリンス“の面々は、走り回っている。人員も少ないが、各々楽しそうな表情を浮かべている。


 現在、午後3時...オープンから半日以上が過ぎたがなんとここまで100を超える勇者パーティーがクリア報酬の”九龍の宝玉“を目指しに訪れていた。


 「ふぅ。これで”デーモンビートル“は大丈夫と。あっ!キノコたちにも霧吹きで水分補給してあげないとだ!!」


 「オブ!!勇者来るぞ!!早く下がれ!」


 「えっ!!わ、わかりました!!」


そんなこんなしている内に、いつの間にかオープン初日の閉店時間を迎えた。


 従業員部屋で力なく机に突っ伏している面々。


 「皆さん、お疲れ様です。はい。コーヒーできましたよ。」


 クモ子は、1人疲れを見せない表情でオブライエンたちにコーヒーを運んでいる。


 オープン初日は、158の勇者パーティーが訪れ、大盛況であった。


 「おい、ノーマンさんよ?これ、バイトでも雇った方がいいんじゃねえか?」


 ゴンゾーがそう言いながら、今日来店した人数などが書かれた紙を見ている。


 「そうだな。ずっとこの調子だと、さすがにこの人数だときついかもしれない。」


 オープン初日、大成功した理由は、色々あったが、一番はクリア報酬であろう。想像以上に食いつきが良かった。

 そして、勇者の人数である。


 勇者にはランクがあり、勇者ランク”1“は、第1階層まで、ランク”2“は、第2階層までの迷宮に挑戦できる。といった言った仕組みなのだが、第10階層から第50階層辺りまでのランクの勇者が一番多いらしい。


 「いやー、ランク10からの勇者は多いって良く聞いてましたが、想像以上に多い気がします...」


 「そうだな。こっから上の階層に行くならやっぱり、人手は必要だな。」


 そんな大成功な2つ目の迷宮オープン初日。改善点もたくさん出てきた。その代表的な事が人手不足という事だろう。魔物も勇者も、”塔“の中の迷宮内で死亡しても、生き返るため、数が減ったりなどは問題ないのだが、疲労は溜まる。


 オブライエンとゴンゾー、途中からコルドーも昆虫型の魔物への餌やりなどで手一杯であった。


 ちなみに、第1階層は、骸骨スケルトンとスライム主体であったので、手が掛からなかったのだ。


 そして、ほかに問題点が一つある。

それは、


 正直、これにはみんなびっくりしていた。上位迷宮のボスの経験がある事は、皆知っていたが、第10階層に来る勇者から見ると恐ろしく強かったのだ。なんと158組の勇者パーティーが来たにも関わらず、クリアできた勇者は、0ゼロであった。


 「それにしても、クモ子さん、あんなに強かったんですね。」


 「いえいえ。そんな事ありませんわ。それにしても第10階層の勇者がこのレベルだとは、思いませんでした。」


 「あははははは。」


 「でも、クリア報酬を獲得できた勇者が1人もいないとなるとな、評判的にはどうだろうな。」


 ノーマンは、携帯で“ダンログ”の口コミを見ながら、考え込んでいた。


 ノーマンが見ている画面を皆して覗くと色々な口コミがオープン当日にも関わらず、書き込まれていた。


 『結構難易度が高い。入場料が安いので向上思考のパーティーにはオススメ!』

 『レア装備の錬成アイテム“九龍の宝玉”が第10階層の迷宮で手に入るのは魅力的!ぜひ挑戦して!」などなど。

 良い口コミも書かれているが、ほとんどは難易度が高すぎるというような口コミが占めていた。


「あら。結構手加減したはずなんですが。明日からは、少し手加減いたしますわ。では、夕食の準備があるので私はこれで。また明日も宜しくお願いします。」


 クモ子は、そう言って帰っていった。

コルドーも一応、アイテム屋の仕事もあるのでここで帰った。


 「それにしても、ゴンゾーさん。クモ子さんと戦ったら勝てますか?」


 「ん?そうだな.....相性は良いと思うけどな....自信はない。」


 「そ、そうですか....」


 オブライエンは、日中見たクモ子と勇者たちの戦いを思い出す。


 勇者たちと相対するクモ子が蜘蛛の巣を口から吐き、それに絡まる勇者は、身動きを取れずにクモ子の牙に貫かれる。


 また、蜘蛛の巣を避け、弓をクモ子に引く者、斬り掛かる者もいた。だが、クモ子は、壁に天井と自由自在に動き、その上かなりの速度で移動する。


 毒霧も吐き、防壁魔法も使えるため、防御面でも高いレベルを誇っていた。


 『第10階層であのレベルのボスは、チートすぎ!』

 『迷宮内に森のフィールドがあり、レベルの高い昆虫型魔物が多数。でも、その森フィールドが霞むぐらい強い蜘蛛人アラクノイドがボスです(ぴえん)』

 などの口コミが大量に書かれる理由も頷ける。


 頭を悩ませる3人だが、とりあえずオープン初日は、大成功という事で一安心であった。

















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