4.告白
彼の返事なんてわかっている。
でも自分の気持ちを前に出さないと後悔してしまうだろうから。
沢山泣いた。
私の頼りにする人は保健室の先生だ。
「やってみるだけでもいいんじゃないかな。
彼も誠実な人柄みたいじゃない。
こんな子と話してはいけないんだけど。
入学式に告白した彼女のこと、一切悪く言ってないみたい。
笑いものにしたり、貶めたりってことはないんじゃないかな」
「うん。そうだとは思う」
「だったらいってみるのもいいんじゃないかな」
保健室の先生にも励まされて告白というものをやってみた。
放課後の教室。部活とか塾とか習い事やらで結局誰も残らない教室がある。
そこに呼び出して気持ちを告げてみた。
「ごめん。いま好きな人がいるから」
当然ながら困った表情の彼。
「そっか。ごめんね。いきなりこんなこと言って。
来てくれてありがとう」
ついにしてしまった告白。
一人で立ち直れるほど私は強くなくて、
保健室の先生に飛び込んだ。先生はがんばったねといって頭をなでてくれた。
「がんばったね。男なんかいくらでもいるからね」
「はい」
学校にいるのは気まずくなるかもしれないけれど、仕方ないと思うことにした。
翌日も変わらない日常だった。
一ヶ月たっても周りの反応は変わらなかった。
どうやら彼は私のことを皆に話してはないらしい。
しっかりと受け止めてくれた彼に感謝した。
でもやっぱり学校には居づらかった。
彼のことをあきらめようと趣味を広げてみた。
もちろん保健室の先生の手を借りてではあったけれど。
「あなたは部活に入っていないんだっけ?」
「はい。自分のしたいことがわからないんです」
「そう。だったら好きなものを上げていきましょうか」
先生は紙とボールペンを取り出した。
「あなたは体を動かすほうが好き? それとも細かなことをしているほうが好き?」
「動かすほうが好きです」
こんな問答を日が暮れるまでやっていた。
「こんなところかな。まだまだやりたいこと、
自分がほしいもの見えていないでしょ? 明日も来なさい」
「はい」
こんな泣くために保健室に通った日もある。押し問答をしていた時もある。
「先生、私気づいたことがあるんです」
それは体を動かすこと、音楽に触れられることの両方がかなうことだった。
ダンスが好きだ。
そう自覚した年のクリスマスイブにはサンタさんは現れることはなかった。
私は気にすることなくダンスに打ち込んだ。
好きだったから。だから教室に入って週に二度レッスンを始めた。
音楽がなれば体が動く。面白かった。
好きなアーティストのオーディションに受かって。
面白いくらいに賞賛された。
好きなアーティストの後ろとはいえ同じステージに立てるのだ。
子供心にすごく誇らしかった。自分はほかの人とは少し違う。
学校が終わればすることが山ほどある。
クラスの女の子に相談されたことがある。
「何でそんなにやりたいことがはっきりしているの?」
逆に困ったことを覚えている。
だってやりたいことがわからなかったことがないもの。
私の一番好きなことは体を動かせるダンスだから。
私の中では決まりきっている簡単なことだけれど、
この直感とも言える核心をどう伝えたらよいのかわからなかった。
中学三年生。まだまだダンスは好きだった。
クラスの男子なんか目もくれず、ダンスばかりの毎日を送っていた。
三年生の理科の実験で男子と同じことをしなくてはならなくなった。
その時に同じ班になったのは初恋の彼だった。
同じクラスになったということも気にかけなかった。
彼は放課後、残っていて私に声をかけてきた。
「ずっと前の話なんだけどさ、告白してくれたじゃん」
ドキリとした。その話題には触れてほしくなかった。
笑顔を作って返事をする。
「ええ。その時の彼女とは仲良し?」
「いいや。あれからすぐにわかれたよ。
なんかむこうのほうでも遊びだったんだってさ。
カッコいいって思ったから俺に近づいただけ。
それほど性格は重視じゃなかったらしい」
「そう」
彼とアドレスを交換した。
お堅い校風で携帯電話を持ってくることは禁止されていた。
二人でこっそり話をして壱日だけアドレス交換のために持ってきた。
そうしてほとんど毎日メールをしていた。
彼女にはもちろんダンスのレッスンがあったから長時間ではなかった。
二、三通のやりとりが多かった。
彼とは委員会も同じになった。
私が残れるのは月曜日と木曜日。
委員会担当の先生はお前たちの都合がいい日に残ってやれと言っていた。
居残りが多かったから六時くらいになっても残っていることが多かった。
彼とは同じ駅でなおかつ同じバスを使っている。
だから必然的に過ごす時間も多くなっていった。
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