5.思い出話と駆け引き


「中学一年の時はサッカーやってたよね。どうして?」

「おれ、怪我したんだよ。遊び程度ならできるんだけど、

 本気で走ったりすると痛むんだ」

 悲しそうな表情をしていた。きっと本当は続けたかったはずだ。

 何とも言えない沈黙が流れる。

「――そうなんだ」


「ねぇ、彼氏いるの?」


 流石にドキリとした。


 自分が彼女をほしいそぶりをしたなら、

 付き合うといってもらえることがわかっている聞き方だった。


 それは俺でも恋愛対象になるのかと言外に問いかける言葉。


「めんどくさいよ。恋愛なんて」


 いつか彼も言っていた言葉をなぞってみる。

 彼に対しての恋心ではない。

 

 彼は傷ついていて甘えているだけなのだろう。

 私は純粋そうに見えるらしい。


 だからそんなことを言うのだ。

 彼のことを好きだと思っているに違いない。

 

 けれど、もう私は違うの。

 彼とのメールのやり取りは楽しいだけ。恋愛では決してない。

「今日はありがとう。ではまたね。レッスンがあるの」


 私の人生はもうダンスでできている。

 ダンス、ダンス。またダンス。そこに男の入る余地はない。

 音楽に合わせて体を動かす。一ミリ、一秒ずれると違和感しかない空間になる。

 身体を作って筋肉質な体型を維持すること。

 

 女子にとっては結構大変だ。

 すぐに脂肪になってしまう。


「待って。レッスンって何時くらいに終わるの?」

「九時くらいかな」

「わかった」

 よくわからない笑みを浮かべてバイバイと手を振った。



 その日から彼は電話をするようになった。

 毎日十時頃に電話が鳴る。

 私はかえってお風呂に入って寝るところだからその時間がちょうどよかった。


 学校での出来事、先生のおかしな話、

 最近始めたことなどなど電話するようになった。


「どうせ一か月で飽きてしまうわ。彼って昔から飽き性だったみたいだし」

 その予想は外れた。一カ月を過ぎても電話は止まることはなかった。

 

 空気のようにふわりと私の生活に侵入してきた。

 告白してきたのなら断れるのに、

 彼は決断のことばを言わないし言わせない。


 その年のクリスマスイブ。

 彼は会わないかと言ってきた。

 私はレッスンが入っていたけれどなぜだかうなずいていた。


 いい加減にこの関係に飽きていたのだ。

 会って、きっちりしよう。

 私のことを好きでいてくれるのか。


 意気込んでおしゃれしたのに彼はラフな姿でやってきた。

 冬だからあったかそうなのはいいのだが、

 やぱり、着古したジーンズと上着というものはわかってしまうものだ。


「イケメンってとかかっこいいって呼ばれているんだから、

 もっと気にすればいいのに」

「どんなにおしゃれしても好きな人に『それってカッコいいの?』とか言われれば、もうこだわる気も失せるって」


 彼は唐突に話を切り出してきた。

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