第23話 魔王と勇者 #2

「――あれ? アイちゃん? ルナちゃん?」


目を覚ましたミーシャは、二人の姿が見えないことに気が付いた。

部屋の中には、ミーシャと、すぴすぴ寝息を立てているオシリスしか残っていない。


「……」


なにか――嫌な予感がした。

母さんが居なくなったのも、確かこんな夜更けではなかったか?


ぎし、と音を立ててベッドから降りる。

ミーシャは長い金髪を手櫛てぐしで整えると、上着を羽織って、静かに部屋から出ていった。





ぱたんと扉を締める音が夜の静寂に響き、オシリスが薄く眼を見開く。

オシリスは、ぼうっと焦点の合わない瞳で誰もいない部屋を見渡して、呟いた。


「むにゃ……魔王様……?」





ミーシャは街を抜けて、夜の森へと入っていく。


無心に歩みを進めているうちに、街の住人が取り決めた不可侵領域を超えていた。

鋭い枝が肌を切り裂き、血が滲む。ミーシャは気にしなかった。

あの日、母さんは、深い森の中で死んでいた。

……どうして、だっけ?

うまく思い出せない。

――


ミーシャは早足で森の中を進みながら、ふるふると首を振る。

母さんのことよりも、いまは、二人の方だ。


わたしはきっと、ルナちゃんとアイちゃんが、母さんと同じ運命を辿ることを恐れている。


この先に二人がいる。

そう考える合理的な理由などなかった。だが不思議な確信に突き動かされ、母の形見のペンダントを握りしめて、ミーシャは森の深部へ進んでゆく。


どれほどの時間、歩いただろうか。


「あれは……?」


遠くから見てもわかる【異常事態】が、そこで発生していた。

そこは深い森の奥地にぽっかりと空いた広場だった。


――炎、熱、光、轟音、そして、聞き慣れた声たち。


心臓は早鐘のように打ち、息を切らせて駆け寄った先で――

妹のように大切に想う二人が、縦横無尽に、人智を超えた戦いを繰り広げていた。


「ふたりとも、何やって――!」


その声は――ルナとアイには、届かなかった。

後ろから接近した黒い影が、ミーシャの口を覆ったためである。


(な、なに……⁉)


――

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